その男、激震!(114)

「…ココって、スィートですよね…」

メモにあったホテルの部屋の前に着くなり木村が落胆混じりに呟いた。
嗚呼…マズイ。
組長の浮気は確定だと木村が横目で佐々木の様子を窺った。

「ああ、スィートだ」

オウム返しのように答えた佐々木は、完全にイッた目をしている。
すぐに行動にも表れた。

「開けろ~~~~ッ!」

部屋のドアを佐々木が蹴飛ばした。

「中にいるのはばれているんだ。観念しやがれ!」
「…隠れているわけじゃないと思います。大声出すとホテルに迷惑ですから、ね、若頭」 

木村が佐々木を落ち着かせようと宥めるように言った。

「その通りですわ。お入りになって」

佐々木の靴跡が付いた部屋のドアが開いた。

「……綺麗だ…」

バスロープに身を包んだ長い髪の女性の出現に、佐々木が素直な感想を洩らす。
木村はバスロープを着ているのにスッピンではなくメークをしている女に違和感を感じていた。
確かに、美しい。男心を擽る色気も持ち合わせている。
だが、女性にしては首が太く、喉仏らしきものが存在しているのも気になった。

「えーっと、あなたは?」

一体何者なんだと木村が女性に見とれ惚けてしまった佐々木の替わりに訊ねた。

「木村さん、私のことをお忘れになって?」
「…あのう、どこかでお会いしたことがありましたか?」

名乗る前に名前を呼ばれた。
初対面のつもりだったが違うらしい。
慌てて記憶の引き出しを漁ったが、出てこなかった。

「忘れてしまったのね…佐々木さんは、もちろん覚えてますよね。ご一緒に色々しましたもの」

女性が佐々木にふった。

「ア、アッシですか? ……えっと…ええ――っと、あ、そうだ。以前うちの店で働いていらっしゃった…いや、違う…う~~~ん」

女性=仕事関係だと思ってしまうのが佐々木だ。
女性から一緒に色々したと言われて色恋沙汰を除外した思考は佐々木の佐々木たる所以だろう。