その男、激震!(113)

「組長は、何を考えていらっしゃるんだ! 浮気が男の甲斐性とか思っていらっしゃるんじゃないだろうな…。愛っていうのはそういうものじゃないだろ? 愛は一つじゃないのか?」
「若頭、組長が何をしたって言うんです? あの一体俺らの行き先は」

車の後部座席に座った佐々木のボヤキに、木村が運転席のシートベルトを絞めながら訊ねた。

「ココだとよ」

グシャッと丸めた紙を佐々木が運転席に投げた。

「…ホテル…?」
「手が離せない用事って組長は言ってたよな? しかも野暮用の後始末ときたら女しかないよな、そうだろ、木村!」

ああ、こりゃ若頭の頭に血が昇っても仕方ね~よな。
これは組長が悪い。
アア…こりゃ、乱れたシーツに裸の女とか若頭が目にした日には、とばっちりは絶対俺だよな…

「…はい、えーっと…」

ハッキリ肯定してもいいのやら、と木村が迷いながら返事をした。

「ああ、分かってる。お前の気持ちはよく分かる。愛する人を裏切るような真似、許せるはずがない! 愛ってそういうものじゃないだろ? そりゃ、組長だって男だ。独り寝が寂しい夜もあるだろう。だけど、時枝さんのことを思ったらそこは我慢じゃないのか? 違うか? それが漢(おとこ)ってものだろう」
「仰有る通りです! ですが…若頭…、組長が後始末を頼むってことはきっと質の悪い女に引っ掛かったのかもしれませんよ?」

木村は浮気相手を悪くいうことで、佐々木の怒りを違う方向に持って行こうとした。

「あ? 木村、それはどういう意味だ」
「だって組長が浮気の後始末をわざわざ俺達に頼むって今までありましたか? まだこのホテルに居座っているってことでしょ? それを組長も放置できないってことは…もしかして何か弱みを握られたんじゃ…脅迫?」
「組長が一人で対処できないような女って言いたいのか? ん~~~」

それも一理あるなと佐々木が考え込んだ。

「とにかく、どんな悪女か確かめましょう!」

その隙をみて木村が急発進した。