その男、激震!(111)

「組長! 一体今までどちらに」

夕方、事務所の顔を出した勇一を待ち受けていたのは時枝ばりの佐々木のお小言だった。

「ちょっと野暮用でな」
「心配したんですよ。電話の一つも寄越せないような用事だったんですか!」
「ああ、ま、な。手が離せなくて…というか離れなかったというか…」

時枝の肌の感触を思い出し、勇一の顔が緩む。

「にやついている場合ですか! 組長の携帯が通じないので、ボンにも電話で問い合わせたんですよ」

勇一も黒瀬を訪ねた段階では、帰りが翌日の夕方になるとは思ってなかった。

「武史は何か言ってたか?」
「…叱られました…邪魔するなと」

佐々木の言葉から勢いが失せた。

「仕事時間に電話するからだ」
「…いえ…その…潤様と…」

佐々木の耳に電話口の向こうから聞こえてきた潤の喘ぎ声が蘇る。

「全部、組長のせいです! 責任取ってください」

羞恥なのか怒りなのか佐々木の顔が赤くなった。

「おいおい、そういうの巷じゃ逆ギレっていうんだ」
「先日も突然いなくなられて。その前も数年間行方不明で…本当に何かあったのかと…。いちいち詮索するつもりはありませんが、組長はもうお一人の身体じゃないんですよ」

いや、お前、それは微妙に意味が違うだろ…
と勇一が、
組長が『ご懐妊に』に聞こえる~~~
と、周りの組員たちが内心で突っ込みをいれていたが、誰一人、口には出さなかった。
いや、出せなかった。
これ以上続けられたら、何を言い出されるかわかったもんじゃない。
しかも微かに佐々木の声が湿ってきた。
ヤバイ、こいつ泣き出すんじゃないのか、と勇一が慌てる。
他の組員の前で若頭を張る男がそう簡単に泣かれても困る。     

「ストーップ。佐々木の言い分はよく分かった。皆に心配掛けたことは謝る。スマン」
「組長、頭をお上げ下さい! そんなつもりでアッシは言ったんじゃ」

じゃあどんなつもりだよ、と一瞬、勇一の頭をよぎったが、大人気ないことは言うまいと我慢した。

「ま、白崎のこともあるので、俺も心配掛けないよう今後は気を付ける。それで俺の留守中に白崎の件で何か収穫はあったか?」  
「その件ですが…」

と木村が口を開いた。