その男、激震!(112)

「引っ越し業者、運送や、夜逃げや、廃品回収業者と家財道具の行方からあたってみましたが、ヒットしません。申し訳ございません」 

深々と木村が頭を下げた。

「目撃情報もあたってますが有力情報は得られていません」

これは佐々木からの報告だ。

「有力じゃない情報ならあるのか?」

嫌味のつもりは勇一にはなかった。
些細なことが手掛かりになることもあると訊いたまでだが、佐々木はそうはとらなかったようだ。

「言い間違えました。情報はこれといって得ていません。有力もクソみたいな情報も何もございません!」
「クソ、か」
「はい、クソです!」

組長! 若頭!!!
組のツートップのやりとりに木村を含めたその場にいた組員が頭を抱える。
二人をお止めしろ、と木村に皆の視線が向く。
厄介ごとは木村の担当となっている節がある。
特に若頭が絡むとその傾向が強いのは、今に始まったことではない。

「組長! お茶が入りました」

その木村の一言と行動は皆の期待に応えるには十分だった。

「ああ」

と勇一が自分の机に置かれた湯飲みを立ったまま手に取った。

「美味い。どこに嫁に出しても恥ずかしくないな、木村」              
「はい、ありがとうございます! …え、嫁?」                  

腑に落ちない顔をした木村の背中を

「細かいことは気にするな」

と勇一がバシッと叩く。            

「ゲホッ、組長~~~、何するんですか!」
「だから、細かいことは気にするな。それより佐々木と木村は此所に向かってくれ」

勇一が丸めた紙を佐々木に投げた。

「――ここは…」
「俺の野暮用の後始末を頼む」      
「組長!」                

紙に書かれた文字と『野暮用の後始末』という言葉で、ある種の誤解をした佐々木が顔を赤らめ目を吊り上げた。

「どういうつもりなんですか!」
「うるさい、唾を飛ばすな。木村、さっさと佐々木を連れていけ」           

表情には出さないが、自分の予想通りの反応をみせる佐々木が勇一には愉快だった。 

「はい。行きましょう、若頭」

紙の中身を見てない木村が、話がまだ終わってないと踏ん張る佐々木を無理やり事務所から連れ出した。