その男、激震!(109)

「お前、まさか…白崎を忘れているんじゃないだろうな」

時枝が勇一を睨む。

「白崎だろ、えーっと、白崎、白崎…う~んと、白崎と言えば…言えば…ぐふっ」

時枝が腕を振り上げ勇一の顎を下から殴った。

「暴力反対!」
「それをヤクザが口にするな、このどアホが! 白崎といえば、桐生の第一事務所に所属、しかも香港のおとし種だろうが!」

時枝が再度、勇一の顎を殴った。

「ぐっ! …うちの勝貴は鬼嫁だ」
「鬼嫁? だ~~れが嫁だっ!」
「勝貴、怒るなら『嫁』じゃなくて『鬼』の方だろ…嫁を否定されるとさすがの僕ちゃんも傷付く、んぐっ!」

三度目のアッパーがきまる。

「アホの戯れ言はもう沢山だ」
「…イテェ…。顎砕けた…イテェ~。当分、フェラできそうもね~」
「ワザと避けなかったのはどこのどいつだ」
「桐生の勇一クンです」
「フェラを誰にするつもりだったのかによって、四度目があるぞ」
「もちろん勝貴クンにです!」
「こういうときだけ、優等生の答えだな」
「いつも優等生です! この優等生の勇一クンは、勝貴クンのイタ~~イ教育的指導により、考えたくもない白崎のことを思い出しました」
「ああそうだ。お前が組から追い出した白崎だ。そのせいで今、桐生は危機的状況だってことを理解しているのか?」
「…ザックリとは、理解しています。ちなみに追いだしたんじゃなくて、ヤツは勝手に組を飛び出したんです!」
「出て行くように仕向けたんだろ。違うか?」 

違う、と言い掛けた勇一が口を噤む。
白崎が姿を消したのは、佐々木と大喜のところに行かせた後だ。
仕向けたつもりはないが、お灸を据えるつもりはあった。
ホモ蔑視の発言に勇一が大人げなく腹を立てていたのは事実だ。

「う~~ん、微妙?」

首を傾げて女子高生っぽく言ってみた。
それが時枝の怒りを買ったのは言うまでもない。
結局四度目の拳を勇一は食らった。