その男、激震!(104)

「…起きてるか?」

習慣で早朝には目が覚めてしまう勇一が、自分に背を向けて横たわる時枝の後頭部に話しかけた。

「寝てる」

素っ気ない返事。

「なに、それ」

勇一が時枝の背中に指を這わす。時枝の背中がブルッと震えた。

「止めろ!」

時枝が勇一の方を向く。

「お早う、勝貴」

眉間に深い皺を寄せた時枝に、勇一は満面の笑顔を向けた。

「……おは、よう…」

反則だと、時枝は思った。
そんなに幸せそうな顔をされたら、不機嫌モードを保てないじゃないか。

「二人でこんな風にベッドの上で朝を迎えるのって、久しぶりだよな~」

久しぶりどころの話じゃない。数年ぶりだ。

「ああ。そうだな」
「もっと嬉しそうな顔したら?」
「……嬉しくないから無理だ」
「え?」

時枝からの想定外の言葉に、勇一の顔から笑みが消えた。

「…俺と一緒に朝を迎えて、嬉しくないのか?」
「ああ。お前と違って、俺は単純じゃないからな」
「…えーっと、要するに、その顔は照れ隠しとかじゃなくて、本当に機嫌が悪いと」
「その通りだ。だから話しかけるな」
「俺が起こしたからか? 低血圧?」
「お前な、いい加減にしろよ」

ガバッと時枝が上半身を起こした。
慌てて勇一も起きる。

「お前がここに連れ込んだのは誰だ? 俺じゃなかったよな? ベッドの上に二人で寝てる発端はどこだ? それを考えたら嬉しいはずないだろ」
「え~~~~~っ、また、そこに戻るか?」 

確かにルーシーだった。
時枝と一緒にこの部屋に入ったわけじゃなかった。
だが、その咎めは十分に受けた。少なくとも勇一はそのつもりだった。

「お前は、俺の愛情の深さを舐めてるんだ!この外道!」

おかしい、確かに暴力の罰も受けたし、その後愛情も確かめ合ったはずだろ。

「わかったら、さっさと顔を洗って出て行け」
「…はい? 勝貴???」

本心はなんだ? 
朝から時枝が怒っている理由が、勇一にはさっぱり分からなかった。