「…起きてるか?」
習慣で早朝には目が覚めてしまう勇一が、自分に背を向けて横たわる時枝の後頭部に話しかけた。
「寝てる」
素っ気ない返事。
「なに、それ」
勇一が時枝の背中に指を這わす。時枝の背中がブルッと震えた。
「止めろ!」
時枝が勇一の方を向く。
「お早う、勝貴」
眉間に深い皺を寄せた時枝に、勇一は満面の笑顔を向けた。
「……おは、よう…」
反則だと、時枝は思った。
そんなに幸せそうな顔をされたら、不機嫌モードを保てないじゃないか。
「二人でこんな風にベッドの上で朝を迎えるのって、久しぶりだよな~」
久しぶりどころの話じゃない。数年ぶりだ。
「ああ。そうだな」
「もっと嬉しそうな顔したら?」
「……嬉しくないから無理だ」
「え?」
時枝からの想定外の言葉に、勇一の顔から笑みが消えた。
「…俺と一緒に朝を迎えて、嬉しくないのか?」
「ああ。お前と違って、俺は単純じゃないからな」
「…えーっと、要するに、その顔は照れ隠しとかじゃなくて、本当に機嫌が悪いと」
「その通りだ。だから話しかけるな」
「俺が起こしたからか? 低血圧?」
「お前な、いい加減にしろよ」
ガバッと時枝が上半身を起こした。
慌てて勇一も起きる。
「お前がここに連れ込んだのは誰だ? 俺じゃなかったよな? ベッドの上に二人で寝てる発端はどこだ? それを考えたら嬉しいはずないだろ」
「え~~~~~っ、また、そこに戻るか?」
確かにルーシーだった。
時枝と一緒にこの部屋に入ったわけじゃなかった。
だが、その咎めは十分に受けた。少なくとも勇一はそのつもりだった。
「お前は、俺の愛情の深さを舐めてるんだ!この外道!」
おかしい、確かに暴力の罰も受けたし、その後愛情も確かめ合ったはずだろ。
「わかったら、さっさと顔を洗って出て行け」
「…はい? 勝貴???」
本心はなんだ?
朝から時枝が怒っている理由が、勇一にはさっぱり分からなかった。