その男、激震!(96)

 

「…あのぅ、」

某ホテルの高層階用のエレベーター内。

「なんだ?」

勇一の対角線上に、――つまり、隅っこに立つルーシーが勇一にオドオドと話しかけた。

「勇一さんは…、こういうことをしょっちゅうやってらっしゃるのですか?」
「こういうことって、ルーシーみたいに綺麗な『女』と一晩付き合うってことか?」
「…はい」
「こんな美人さんとは初めてだ。ルーシー次第では、はまっちまうかもな」
「…やだ……この、ド、」

やだの後がエレベーターが目的の階に到着を告げる音で掻き消された。

「何か言い掛けなかったか?」

エレベーターから降りた勇一が後ろを付いて歩くルーシーに訊いた。

「いいえ」
「そうか。着いたぞ。この部屋だ」

予約無しでも空いているような単価の高い部屋だ。

「…凄い…」

ルーシーが部屋を見渡し感嘆するのも頷ける。

「寝室はもっと凄いぞ」

勇一が分かれている寝室へ、ルーシーを案内する。
角部屋のスィートで、寝室の壁は角を挟んで二面がガラス張りだ。
高層階なので、眼下に首都の夜景が一望できる。
勇一がこのホテルを選んだのは、この部屋があるからだ。

「ルーシーこっちに来いよ」
「…汗掻いてるし…、シャワーを…」

化粧のないルーシーにも興味あったが、まずは『美人』のルーシーだ。

「いいから、こっちに来い。一緒に外の景色を楽しもうぜ」

楽しみたいのは勿論別のことだが。

「…でも」

相変わらず距離を保とうとするルーシーの腕を勇一が引っ張った。

「わっ、」
「ルーシー、本当に綺麗だ。外の夜景より数倍、いや、数百倍、いいや、数万倍綺麗だ」

そこまで細くはない腰を引き寄せ、勇一の手がルーシーの顎を掴む。
そしてその唇に自分の唇を重ねようとした瞬間、

「ってぇええええ――ッ!」

勇一の股間にルーシーの膝がめり込んだ。

「な、な、な、に、をっ、」

息が出来ないほどの痛みで言葉にならない。
その場で踞った勇一をルーシーが冷ややかに見下ろした。

「何を、だって?」

今までとは違う男の声。

「それはこっちの台詞だ!」

勇一もよ~く知っている男の声だ。

「このぉおお大バカ野郎の浮気者があああっ!」

ルーシーが眉間に皺を寄せ怒鳴った。

「…んな、バカ、な…」

勇一が愛して止まない時枝勝貴の声で。