その男、激震!(95)

 

「お、いいね~」
「私と一緒に歩くの、恥ずかしくないですか?」
「何故そんなことを訊く」
「…だって…、私、どう見ても…女性には見えないでしょ…」
「綺麗だ。ルーシーはその辺の女より美人だ。俺好みだから、ほら、もっと寄れよ」

勇一が、ルーシーの肩を引き寄せた。

「…緊張するので…その…」
「良い匂いだ」

クンクンと勇一が鼻を鳴らす。

「止めて下さい! あ、タクシーが」

勇一から逃れるようにルーシーが手を振り、タクシーを停めた。
後部座席のドアが開く。

「近場だけどいいかな?」

乗り込む前に勇一が運転手に聞いた。
勇一の顔を見た瞬間、運転手の表情が強張(こわば)った。

「ワ、ワンメーターでも歓迎します」

勇一が桐生の組長だと知っているのだろう。

「ありがとうよ」

支払いがあるのでレディファーストではなく勇一が先に乗った。
ルーシーは勇一からできる限りの距離を取り座った。
タクシー内で触れられるのを避けたいといったところか。

「行き先は俺に任せるか? それともどこか行きたいところがあるか?」
「…お任せします」
「わかった」

勇一が行き先を運転手に告げる。
それを聞いていたルーシーの表情がその一瞬、厳しくなったのを、勇一は見逃した。

「楽しい夜になりそうだ」

勇一が話しかけた時には、ルーシーの表情はまた恥じらいを含んだものに変わっていた。

「はい」

それ以上の会話はなかった。
二人を乗せたタクシーはおよそ10分ほどで勇一の告げた場所に着いた。