その男、激震!(90)

 

「そうです」
「逆じゃね~のか? どうして彼女が彼を狙う? 彼女の頼みで預かるならまだ理解できるが。母親が息子を頼ってきたという点でな」
「それは、白崎さんが緑龍の血を引くからです。彼はヘッドの隠し子です」
「はあぁあああ!?」

勇一の驚愕などお構いなしに、潤が先を続ける。

「ヘッドと日本人女性との間に産まれた子です。それが今頃になってマダムにばれてしまい、彼女の逆鱗に触れた訳です。浮気だけじゃなく子どもまで作っているのだから怒るのは当然ですが、何より白崎さんの存在はナツキの将来に邪魔ですから」

ナツキというのは、黒瀬の実母である翠とヘッドの間に産まれた男の子だ。
黒瀬とは年の離れた異父兄弟になる。

「…白崎本人の意に関係なく後継者争いに利用されかねないってことか」
「白崎さんは自分の父親を日本人の貿易商と思っています。籍には入ってないものの、ヘッドとは面識あります。でもまさか自分が香港マフィアの血を引くとは思ってもないでしょ」
「――ヘッドはお義母さんの一番手が出しにくいところに隠したと」
「そういうことです。まさか隠し子をマダムの関係者に託すとは思わないでしょ。預かっていることがバレても手が出し辛い…という目論見でしたが…」
「ふふ、ヘッドの目論見は外れたね。失踪したなら、マダム翠が一番怪しい。手がかり一つないって、普通じゃないしね」

ここで黒瀬が参戦してきた。

「つまり、白崎に何かあったら今度はうちがヘッドの逆鱗に触れるとことか? お義母さんのことだ。自分が係わった形跡など残すはずがない。桐生の落ち度だけが残る」
「ヘッドは白崎の身を案じるぐらい、彼が可愛いみたいだし、何かあったらタダじゃ済まないでしょ。兄さんや桐生だけでなく、預かった時に組長だった時枝にも」
「…だが、勝貴は墓の下だ」
「そんなこと、緑龍に通じるわけないでしょ。偽装工作だってお見通しですよ」