その男、激震!(89)

 

「勝貴には詳細を話してあるのか? 白崎ごときがどうしてこんなに大騒ぎしないとならないんだ。理由もわからずやってられるか。中途半端な脅し文句並べやがって。どうして香港が出てくる。白崎と緑龍(グリーン)に繋がりはないだろうがっ!」
「兄さん。それ、マジに言ってます? 時枝は白崎の顔を見ただけで推測をベラベラとまくしたてましたよ」
「頭のデキが違うんだよ。あいつは昔から優秀なんだよ。だいたい俺があいつに声を掛けたのだって……って今はそんなこたぁどうでもいいだろッ」
「組長さん、落ち着いて下さい。どうでもいいことを勝手に話始めたのは組長さんです」

潤に冷静に言われ、勇一がクソッと床を殴った。

「ふふ、床に八つ当たりとは、案外小さな男ですね」
「ぅるせ~よ。白崎のことで緑龍が乗り出すっていうなら、ちゃんと説明しろっ。じゃないと金輪際(こんりんざい)桐生は白崎のことでは動かね~ぞ。組を潰すっていうならやってみやがれ。翠さんには悪いが全面戦争だ」
「ふ~ん、あの人とやり合うつもりなんだ。兄さんにそんな度胸があったとは。いいんですか? 身内のゴタゴタで組員を死なせても」
「ヤクザなら、いつでも死は覚悟しているはずだ。…ん? ちょっと待て。今、身内って言ったよな?」
「ええ」
「どういうことだ! さっさと説明しやがれ!」
「組長さん、唾を飛ばさないで下さい。説明するのはいいんです。但し、聞いた以上は必ず白崎さんを見つけ出して下さい。無傷の状態で」
「…既に死んでいたら」
「兄さんや組だけでなく、時枝もヤバイかも」

勇一にとってこれ以上とない脅し文句だった。

「…生存を信じて動く。それしかないだろ」

失踪者の生存率が高いとは思えない。
日に日にその確率は下がる。
それでも生きてると信じるしかないだろう。

「では俺が説明します。いいよな、黒瀬」

潤が黒瀬に同意を求めると、潤だけに向けられる穏やかで優しい視線と共に黒瀬が頷いた。

「白崎さんを預かったのは黒瀬の母であるマダム翠から彼を守る為です。それを要請したのは彼女の夫です」
「緑龍のヘッドか?」

身の保全の為、彼は通り名を幾つも使い分けている。 
便宜上、多くの者は名ではなくヘッドと呼んでいた。 
彼の名で会話するなど、危険極まりないからだ。