その男、激震!(88)

 

勇一が誤解したとは木村は全く気付いていなかった。
肩を落とした勇一をフォローしたつもりだった。
桐生の組長は勇一しかいないと伝えたかった。
白崎の件はむしろ自分だって被害者だと木村は思っている。
しかし項垂れた勇一をみると、その原因の一つは自分にもあるような気になった。
男と男の熱い世界だ。
通常なら惚れているとか好きですとか出ても、その中に『男気に』という言葉が隠れていることは分かるはずなのだが…。
木村の災難は、勇一も少々疲れていたということだろう。
『好き』とか『惚れる』という言葉があまりにストレートに勇一に伝わってしまった。
そんな楽しい(?)桐生内の誤解とは別に事態は少々複雑に進んでいく。

 

 

「三日もあれば十分と大見栄切ったのはどこのどなたです?」

黒瀬の自宅に勇一は呼び出されていた。

「一週間が期限だったはず。今日はもう十日目ですよ。それなのに手がかり一つない。自ら失踪したのか第三者によるものなのか、生死さえもハッキリしない。桐生はどれだけ無能なんですか」

リビングの床に座った勇一をソファに並んで座った黒瀬と潤が見下ろしている。
正座ではなく胡座(あぐら)なのは、勇一の年長者としての矜持の表れだ。
それでも今の勇一に組長しての威厳は全く感じられない。
叱られている大型犬と言った方がしっくりくる。

「勝手に期限を設けたのはそっちだろうが。だいたい、白崎はうちに属しているんだ。どうしてお前らに指図されないとならない」
「兄さん、そこからして間違っているんですよ。白崎は預けただけですから」
「だいたい、俺は預かった覚えなどね~ぞ」
「そりゃそうでしょう。その時期、あなたは時枝を殺すことで忙しかったんだから」
「時枝さんが責任を持つと言ってくれたことを組長さんは放り投げるつもりですか」

潤にまで攻撃され、勇一は面白くない。