その男、激震!(85)

「…はい。仰有る通りです」
「それで、どうしてお前は一人ノコノコ戻って来たんだ?」
「それが…ここから先は」

と木村が言い掛けたところで、勇一の携帯がなった。 
潤からだ。

「――木村が世話になったな…。はあ? 知るかっ。…桐生のせいじゃね~よ。アイツ個人の問題だ。だいたいあんなアホを桐生に押しつける方が悪いんだ。一週間? 上等だ。三日もあれば十分だ」

通話を終えるなり、勇一が鬼の形相で木村を睨む。

「今すぐ全員戻せ! てれっとしてるんじゃね~ぞ」

そして怒鳴られた。
昨日から厄日だ。
何がいけないんだ?
俺が何をした?
俺は指示に従っただけだ。
そうだ。
俺は何も悪くない!
何一つ悪くないッ!
――なんてガキみたいないい訳が通じる訳ね~か。
ああ、辛い。
ヤクザの上下関係っていうのはこうも辛いものか…今更だ。
自分で選んだ道だ。
後悔はしたくない。
でもよ…明日以降も厄日が続きそうな気配なんだ…。
木村の指先は心の葛藤にも負けず、携帯を軽やかに操る。

『緊急。至急事務所へ戻れ』

木村は一斉メールを送信した。

「白崎以外、全員戻ったか?」

勇一自ら確認する。
全員といっても勿論この桐生組第一事務所に名を連ねる者だけだ。他の支部まで一堂に集めることは物理的に不可能だ。

「はい。不在は白崎だけです」

佐々木が代表で返事をする。
その佐々木の視線は勇一ではなく木村に向いていた。

――どうして白崎がいないんだ。
連れて来いと命じたはずだ。
あ?

木村は佐々木の視線を顔全体に感じつつ、気付かないふりを通す。