気が重い分、ドアが重く感じる。
普段の二倍の時間を掛けて木村がドアノブを押す。
「ただいま戻りました」
昼食に出ているのか、事務所には勇一しかいなかった。
「遅かったな」
橋爪に見えて仕方ない装いの勇一が木村の背後を探るように見る。
「ヤツは何処に隠れてるんだ。早く入るように言え」
「…あのう…、潤さまから連絡が入ってないですか?」
「ない。まさか、一人じゃないだろうな」
「…その、…一人です」
「はあ? 白崎はどうした!?」
「消えました」
これを、と木村が勇一に白い紙を渡す。
「探さないで下さい…ホモのいない世界に旅立ちます…なんじゃこりゃ。サッサと旅立っちまえッ」
勇一はその紙をグシャグシャッと丸め、ゴミ箱へ放り投げた。
「手がかりが~~~っ」
木村がゴミ箱に駆け寄り丸まった紙を取りだした。
「何が手がかりだ。捨てておけっ」
「組長ッ! 白崎が居ないだけじゃないんですよっ! 白崎の部屋、何もなかったんですよ! それに、潤さまが…」
「大騒ぎするようなことか? 組が嫌になった白崎が夜逃げ同然で逃げたってことだろうが」
「でも、潤さまが…」
「さっきから潤潤、って煩いぞ。お前なにか? 潤と一緒に行ったのか?」
「…俺には見せられないものがあるかも知れないとかで…」
「組のことに一般人を巻き込んでるんじゃね~ぞ」
「一般人? 一般人は巻き込んでないです。同行したのは潤さま一人です」
「バカか。潤は一般人だろうが。武史の嫁つうだけで、ヤクザじゃね~ぞ」
そう言われればそうなのだが、潤の影響力を考えるとどうも納得がいかない。