その男、激震!(81)

いつまで待ってたらいいんだろう。
非常口ってここだよな。
いや、こんな立派なビルだ。数カ所あるかもしれない。
いや、確か、組長が出入りしてたのはここだった。
ここで組長を待っていたことがある。
それに変に動いて行き違いってことになったら、それこそ大変だ。
何が何でも白崎をとっ捕まえて、絶倫ドリンクとスィートと温泉宿代プラス精神的苦痛に対する慰謝料をぶんどってやる。

「木村さん、大丈夫ですか?」

背後からの声に

「わっ、出たッ!」

木村が跳び上がる。

「出たって…お化け扱いですか?」

待ち人来たりだというのに、木村は言葉のの選択を間違えてしまった。

「申し訳ございませんっ、…心の準備が整ってなくて…」
「俺って木村さんには心の準備が必要な存在なんだ~。それって会いたくない相手ってことですか?」

気のせいではなく、言葉にトゲがある。

「め、滅相もございませんっ!」

木村は慌てて頭を下げた。

「ハハハ、佐々木さんが乗り移ってる」

社長秘書しての風格を身に付けた潤が、悪戯好きの子どものような顔で笑う。

「仕事中にお邪魔して…申し訳ございません」
「そうだよ。忙しいのに、桐生の人たちは暇そうだね。黒瀬なんて今日はお昼を摂る時間もスケジュールに入ってないよ」

ヤバイ、と木村の顔が青くなる。
多忙時に訪ねたとなると、無事に帰れる気がしない。

「だから、黒瀬の手間は取らせない。はい、コレ」

潤が上着のポケットから何かを取りだし木村の前に翳した。

「これは…白崎の?」
「マンションの鍵です」

木村が鍵を受け取ろうと手を伸ばすと、潤がヒョイとその手を避けた。

「え?」
「渡すのはいいけど、部屋の中に木村さんが見てはいけないものがあるかもしれない」
「…それって…白崎の死体ですか…?」
「そんなものが転がっていたら、桐生組存続の危機ですよ」
「…まさか、…大袈裟な…。一番使いモノにならない新入りですよ」

どこぞの組の跡取りとでもいうつもりか?
そんなバカな。
それだったら、組長代理が絡むはずがない。

「仕事ぶりとか能力には全く関係ないですよ。ということで、俺も同行します」
「えええーっ? お仕事がお忙しいんじゃ?組長代理が多忙ってことは秘書の潤さまもお忙しいはず」
「あのね、うちの秘書課は俺以外にも優秀な秘書はいるの。俺が抜けても社長の機嫌が若干悪くなるぐるらいで、仕事は回るからご心配には及びません」

いや、その社長の…組長代理の機嫌が悪くなることが、一番怖いんですけど。

「ですが…やはり…ご迷惑じゃ」
「ええ、迷惑です。ですから急ぎましょう」

潤の勢いに押され、二人で白崎のマンションへ行くこととなった。