「ココか? 間違ってないはずだが…」
勇一に無駄な助けを求めた木村は、今、メモを片手に高級マンションを見上げている。
木村が、まず最初に向かったのが白崎が住んでいるはずの場所だった。
事務所の名簿から写し取ったメモに書かれているマンション名は確かに目の前の分譲マンションと一致している。
一介の組員が住むにしては高級すぎる。
不動産に詳しいわけじゃないが、黒瀬と潤が住んでいるマンションと同じレベルだとエントランスの造りからも容易に推測できる。
もっとも、木村ごときが黒瀬達の部屋に入ることはできない。
だが、そのマンションが万ではなく億レベルなのは知っている。
いわゆるセレブと呼ばれる人間の住処だ。
「やっぱ、ココだよな。…番地の七。ルビーの杜三〇五号室」
アイツはイイトコロのお坊ちゃんか?
家族と同居しているのか?
と木村の頭の中にクェッションマークが飛び交う。
取り敢えずエントランスアプローチに設置された訪問者用のパネルで部屋番号を押す。
応答がない。
木村の姿は室内から確認できるはずだ。
ということは、会いたくない白崎、またはその家族が居留守を使っているのかも知れない。
「白崎、いね~のか? 誰もいね~のか? 本当に留守か? 居留守だったら、タダじゃおかね~ぞ」
録画録音されていること前提で木村はそう言い放ち、その場を離れた。
「子どものおつかいか? あ?」
一人で事務所に戻った木村に、佐々木が冷たい視線と言葉を投げつけた。
「…申し訳ございません」
「ゴメンで済めば、警察はいらね~んだよ」
俺、ゴメンって言ってないし…。
ヤクザが警察肯定するのもどうかと…。
「はい、仰有る通りで…」
心の中の本音は、当然言えない。
若頭の佐々木に口答えなどできる立場ではない。
木村は佐々木の言葉を肯定するしかない。
「居留守かもしれません。もう一度行ってきます」
「あたりめ~だろ。サッサと行け。今度戻る時は、分かってるだろうな」
「はい、白崎と一緒です」
つまり、ひっ捕まえるまで、戻ってくるなと言うことだ。
「行ってきます」
ガクッと肩を落とした木村が事務所を出て行こうとしたとき、
「ちょっと、待て」
と勇一が呼び止めた。