その男、激震!(76)

木村の一声で、硬直していた者達が一斉に声をあげた。

「組長、お早うございます!」
「ああ。成る程ね~~。ようやく理解した。佐々木、お前な~…気付いてたなら、言えよ」

勇一に渋い顔を向けられ、佐々木が「申し訳ございません」と頭を垂れた。

「心配するな、橋爪じゃない。桐生勇一だ。分かったら姿勢を正せ」

一斉に背筋を伸ばす。

「よし、今日は佐々木も顔を出したし、全員揃ったな。仕事に励め」
「…あのぅ、組長…それが全員じゃないんです」

M字に禿げ上がった渡部が申し訳なさそうに口を開いた。

「ん? 全員いるだろ」
「いえ、一名、来ていません」
「佐々木、この組に座敷童がいたか?」
「いません。そうですね…、この第一事務所所属で来てないのは…」

話を振られた佐々木が組員の顔を見渡した。

「……いないのは…、…え~っと…」

佐々木でもパッと思い浮かばないらしい。
この段階で、木村はその一名が誰であるか分かった。
『…あの野郎、やっぱ、消えたか? …消える前に絶倫ドリンク代、置いて行け!』
だが木村はその名を口に出さなかった。

「一番に来ているはずの新入りが、――白崎が来ていません」

渡部が申し訳なさそうに正解を出す。

「それで朝から苛つかなくて済んだのか。顔を出したら厳重に注意しておけ」

勇一にとって、白崎の不在は重要案件ではなかった。

「新聞とお茶」

白崎のことを言及する気など更々ないらしい。

「白崎って言えば、あいつも昨日…そうだ、そうだった、木村ッ!」

だが、佐々木は違った。
ついさっきまで存在すら忘れていたくせに、腸が煮えくり返る程の怒りが佐々木の中に湧き上がる。

「今すぐ白崎を此処に連れて来い! 大喜の裸に触れただけじゃなく、俺の愛情の印をダニ扱いしやがったッ。木村、お前も同罪だ」

普通にしてても強面の佐々木が、怒りを露わにすると、鬼の面より厳つい。
そんな顔で睨まれた木村が、情けない声で「組長~」と勇一に助けを求めた。