「組長のお出迎えにも出ねぇで、何やってんだ、てめぇら?」
勇一を乗せた車が事務所下に到着しても、誰一人として出迎えがなかった。
眉間に深い皺を寄せた佐々木が不機嫌露わに事務所のドアを開く。
「…木村、お前一人か?」
佐々木の目に入ったのは慌てた様子の木村一人だった。
「いえ、その…若頭、視線を下に…お願いします」
どうした、と佐々木が木村を捉えていた視線を下にずらした。
「は?」
床にゴロッと岩が並ぶ。いや、違う。
一列に並んだ人の背だ。
「若頭!」
濁声の多重唱だ。
「昨日は、大変、申し訳ございませんでしたッ」
岩が一斉に叫ぶ。
「忘れていたことを思い出させやがって。いいから立て」
ゴツン、ゴツン、ゴツン、と横並びに垂れていた頭を殴りながら佐々木が命じた。
「いい加減、俺を通せ」
佐々木の背後から、通せんぼをくらっていた勇一が自分の存在を示す。
「失礼しました」
佐々木がササッと横にずれると、勇一が不機嫌な面で姿を現した。
その姿を目にした一同は、立ち上がりかけの中途半端な姿勢のまま硬直した。
「…橋爪…?」
今ここにいるのは、橋爪を追っていた者ばかりだ。
時枝が入院していた病院や大喜が連れ込まれたホテルの映像で橋爪の姿を見た者は多い。
「あ?」
勇一の耳に誰かが洩らした一言が届く。
「組長、お早うございます!」
不穏な空気になりかけたのを察知した木村が、ハリのある声で挨拶を入れた。
木村だって一瞬我が目を疑ったが、若頭の佐々木が「組長の出迎えが~」と言っていたのを思い出したのだ。