その男、激震!(72)

白崎の存在を今日まで意識したことのなかった勇一に、今日一日で強烈な印象を与えた白崎は、桐生最高の問題児だと言っても過言ではないだろう。
何故、今まで存在が薄かったのか、不思議なぐらいだ。
が、それは、勇一が彼と接する機会が少なかったからで、他の組員からしたら、白崎が時枝に連れて来られたときから「使えない新人」という強い印象を持っていた。
一週間もたないと誰もが踏んでいたのに、何故かまだいる。
劣化版勇一の騒動や、時枝が墓の住人(?)になったりと、組の中がゴタゴタしている間に、彼は居着いていた。
白崎は有事には影が薄く、大きな問題が起きれば、たちまち存在すら忘れられるようなキャラだ。
だが、皆の心に余裕があるときには、かなりの迷惑キャラだった。
そして今のように、姿がなければ、簡単に忘れ去られる存在でもあった。
彼がどこに行ったのか、誰一人気にする者がいなかった。
勇一に至っては、黒瀬から香港と何らかの繋がりがあると匂わされ、気になっていたにも変わらず、白崎のホモ蔑視の発言で、香港のことも頭からぶっ飛ぶ始末だ。 
そう、白崎は、誰からも居場所を気にされることもなく…その翌日も事務所に現れなかった。

「組長! お早うございます。お迎えに馳せ参じました。朝食の用意も済んでいます」

本宅に戻らず主不在の時枝のマンションで一晩過ごした勇一の元へ、元気溌剌の中年男が顔を出した。
若頭の佐々木だ。

「ちゃんと、俺の寝室は片付けたんだろうな?」

インターフォン越しに勇一が確認する。

「はい! 完璧でございます。寝具全部を取り替え、消臭の上、フローラルアロマの芳香剤を置いてあります」
「…最後のは余計だ。ガキは?」
「自宅の寝室にて、休養中であります」
「…今朝までやってたんじゃ…」
「いえ、深夜の三時頃までです」

それを今朝って言うんだよ、このどアホ。

「はあ。まあ、いい。今から降りるから待ってろ」

佐々木と大喜が一日中盛っていた寝室に戻る気になれず、このマンションに来たのだが…一人だと寂しいだけの場所だった。
上の階には黒瀬達がいるが、顔を出しても邪魔者扱いされることは目に見えているので、昨夜は一人でテレビを見ながら呑んでいた。
勝貴~~~っ、早くさせろ~~~と吠えながら。