「だから? 時枝組長をホモ扱いする木村さんなんて嫌いですッ」
「別にお前に好かれなくても構わない。嫌いってことは、何か? お前、今まで俺が好きだったのか? それこそホモだろ」
そういう意味で言ったんじゃないと分かってて、木村が意地悪なことを言う。
「な、な、な、なんてことをっ、」
白崎が眼球をひん剥いて反論しようとしたが、余程興奮したのか、その後の言葉が詰まって出てこなかった。
俺はいじめっ子か?
と自己ツッコミを入れつつも白崎の反応が面白くて木村は更に続けた。
「正解だろ。そうか、本当はお前、男が好きなんだ。だから、オープンにしているやつらが嫌いなんだ」
木村のこの発言により、白崎の抜けていた腰に活力が漲ったらしい。
「木村さんの、バッカ―――ッ!」
立ち上がると同時に木村に体当たりすると、脱兎の如く勢いでその場から走り去った。
「…白崎の野郎、なんなんだ? 放って置いてもいいよな? 組長の指示はここに連れてくることだったし、組まで一緒に戻らなくても別にいいよな?」
このまま組から消えてくれれば、という考えが木村の頭を過ぎる。
いや、待て待て、絶倫ドリンク代を請求してからだ。
いなくなった白崎より絶倫ドリンクの代金のことを気に掛けながら、木村は勇一の待つ桐生の第一事務所に戻った。
「殺されなかったのか。つまらん」
戻るなり木村が組長の勇一から掛けられた言葉がこれだ。
「はい、無事でした」
どうして、お前は無事なんだ、とまだ顔を腫らしてる面々がジロリと木村を睨む。
「それで、あのアホはどうした?」
「…白崎でしたら、初めて目にする光景に腰を抜かしていましたが、その、何なんですかね…我に返った途端、走ってどこかに行ってしまいました」
現組長の勇一と前組長の時枝の関係をばらしたことと、白崎をホモ扱いしてからかったことは伏せて報告した。
「そっか。じゃあ今日はもうあのアホの顔を拝まなくて済むな。皆、仕事に励め」
勇一は白崎が受けたはずの衝撃を想像して、「ザマーみろ」と腹の中で舌を出していた。