その男、激震!(70)

 

「オイ、組に戻るぞ」

腰が抜けたように寝室の外に連れ出しても立とうとしない白崎の頭を木村が軽く叩く。

「聞いてるのか?」

白崎は惚けた顔のまま、動かない。

「しっかりしろ、白崎」

再度頭を叩く。
今度は音がするほど強く叩いた。

「――木村さぁん…若頭が、ホモです!」

我に返った白崎が、目を潤ませ訴えた。

「ああ。正確には違うが、ま、大森とはそういう仲だ」
「――挿れてましたっ! …お尻の穴に、鋳挿れてました! ホモ…ホモ…ホモだぁあああっ!」
「だから、何だっていうんだ? セックスしてただけだろ。一々騒ぐなよ」
「ホモなんですよ? お尻の中に…お尻の中に…」
「いいじゃねぇか。男にはケツの穴しかないんだから。どの穴でも本人同士が幸せなら、いいだろうが」
「――よくありません!」
「そんなこと俺に言われても。それにな、うちは若頭だけじゃねえんだよ。組長はうじゃうじゃって仰有っていたけど、そこまではいない。だが、組長本人がそうなんだよ。組長の伴侶はお前も知っている前の組長だ」
「――時枝組長? …嘘です。――嘘に決まってますっ、時枝組長を悪く言うなんて…侮辱するなんて、許せませんッ!」

白崎が木村に食って掛かる。
自分を組に入れてくれた今は亡き(と白崎は思っている)時枝を、白崎は崇拝していた。

「――いや、白崎、お前の方が侮辱しているから。時枝前組長が今の白崎の発言を知ったら、絶対に悲しむ。物凄く今の組長に惚れている。それこそ命がけだ」
「――そんなことない。時枝組長がホモな訳ないッ! 立派な組長だったんだ。酷いです。あんまりだ。分かったぞ。木村さん、自分がホモなんだ。だから時枝組長までホモに仕立て上げようとしているんだ。それしか考えられない!」
「…オイ、勝手なこと言うな。俺は妻子持ちだぞ…」

まだ、と小さく付け加えた。
木村もプライベートでは苦労が絶えない。
いや、プライベートでも、だ。