その男、激震!(59)

「ちょ、ちょっと、何なんですかっ! こっち見ないで下さいよ」

自分に集まった視線に、木村が慌てた。

「よろしくお願いします」

カラフルな面々が、一斉に木村に向かって頭を下げた。
兄貴分にあたる面々に深々と頭を下げられたら逃げられない。

「…そんなぁ…」
「白崎、木村に同行しろ」

勇一から留めの一言が放たれた。

「組長~~~。若頭に殺されます!」
「大丈夫だろ。こいつら見てみろ。全員生きてる。多少、顔が崩れているが、ま、ヤクザらしい面構えになったと思えば問題ない」
「問題大有りです、ってぇ」

木村が勇一に縋るように言うが、逆効果だった。
勇一がジロリと木村を睨んだ。

「てめぇ、俺のイロにでもなったつもりか? あ? なんだ、その甘えた気色のワリィ言葉遣いは? てめぇがそんなんだから、その下の白崎がアホなんじゃね~のか? あ? 白崎に現実を見せるついでに佐々木に根性を叩き直してもらえ」
「…はい」

としか、木村は言いようがなかった。
ここで何を言っても自分には不利に働くだけだ。
理不尽でも組長の言いつけなら仕方がない。
ここは潔く佐々木にボコられるしかない、と腹を括った。
しかし、納得していないのが一名。

「俺、アホじゃありません」

白崎だ。

「は? 今は俺と木村の会話だったんだ。割り込んでくるな」
「…組長、今、俺のことアホと仰有いました」
「言ったか? 言ったかもしれね~な。言ったとしても問題ね~だろ。事実だ」
「アホじゃありません! 他人をアホという人間の方がアホだと学校で教わりました!」

この白崎、プライドは高いらしい。
学歴も高いのかもしれないが、やはりアホであることは間違いない。
学歴の高さと人間としての賢さ、利口さは関係ない。それはこの世界にいればよく分かる。
それを一つ一つ例を出して諭してやる気など勇一には全くなかった。
白崎相手に長々とこれ以上時間を使うのが馬鹿らしかった。

「るっせーな。ここは学校じゃね~んだよ。木村、このアホをサッサと連れ出せ。現実をしっかり見せてこい」
「はい! 白崎、行くぞ」
「…俺、アホじゃありません…」

木村に腕を掴まれ事務所から引き摺り出されながらも白崎は、自分はアホじゃないと繰り返していた。