その男、激震!(58)

「なんだ、お前、知らないのか? うじゃうじゃいるぞ~」

勇一は白崎を咎めることなく、面白半分にからかいに走った。

「ひっ、うじゃうじゃですかぁ~~~っ」

白崎が泣きそうな声を出す。
白崎以外は、「いや、トップの方々だけです!」と言いたいのをグッと堪えていた。

「だいたい、やくざは男と男の世界だ。嫁や恋人がいようが、男とも懇ろになるヤツは多い。ヤクザ社会では兄弟の契りっていうだろ? 契りって言葉を辞書でひいてみろ。肉体関係ってあるからよ~」

いや、それはあくまでも言葉の持つ意味の一つで…と、誰もが言いたかった。
だが組長である勇一が白と言えば、黒でも白の世界だ。
このままでは自分達が勇一の言うところの『うじゃうじゃ』の一員に入ってしまう。

「…嘘だぁ…あるぅううう」

携帯電話の辞書アプリで『契り』を調べた白崎が、ショックに見舞われている。それが勇一を更に調子付かせた。

「つうか、お前、佐々木とガキの関係知らないのか? 朝、木村と俺が話しているとき、側にいただろ?」
「…すいません、お話聞いてませんでした。自分の名が出たところからは、ちゃんと聞いてました。あの、ガキって大喜さんのことですよね?」

大喜の存在は知っていた。自分と同じ年で住み込みで本宅の仕事をしている大学生という認識だった。

「そうだ。あの二人が今何してるのか、教えてやろうか? っていうか、こいつらに聞くか?」
とんでもない! と皆一斉に首を振る。
「一見は百聞にしかずだ。誰か、こいつを佐々木達の居場所へ連れていけ」
「組長、それは!」

さすがにこれには素直に「はい」とは言えなかった。

「いい考えだろ? 白崎に、ヤクザの、この桐生の真の姿を教えてやれ」

勇一がニヤッと笑う。
白崎の同性愛蔑視にもとれる驚愕ぶりへの腹立たしさに、現実を見せるとことで仕返しをしてやろうという魂胆と、白崎に自分と時枝の関係を正しく教えてなかった組員達への嫌がらせを兼ねた指示だった。

「誰でもいいぞ」

外れくじを引くのは誰だと一同顔を見合わせる。
カラフルな顔の面々、思うところは同じだったらしい。

「やはり、ここは…」

一同とは別に、一歩下がったところで勇一と白崎のやりとりを聞いていた木村に白羽の矢が立った。