派手に衝突したセダンがその後どうなったかの確認はせずに、勇一は一路、帰路についた。
途中パトカーとすれ違ったので、多分、事故現場に向かっているのであろう。
救急車は勇一が下山する前に到着していたのか、出会さなかった。
「お帰りなさいませ、組長」
勇一が組事務所に戻ると、カラフルな彩りの顔をした軍団が出迎えてくれた。
「こりゃまた派手な面構えだな。しかも不細工極まりない」
勇一の寝室に飛び込んで、佐々木の怒りを買い、ボコボコに殴れたのは、間違いないだろう。
「佐々木か?」
勇一の問に口を開いたのはM字の額を持つ渡部だった。
「…組長も人が悪い…。…その、てっきり、若頭が……」
そこで口籠もる。
組長に殺(や)られたと思って、とはさすがに続けられなかった。
「何を誤解していたのか知らね~が、佐々木とガキの閨を覗きに行こうとは、てめ~ら、欲求不満じゃねえのか? 大丈夫か? 各々処理してくれるね~ちゃんなりに~ちゃんなり、嫁なりいるんだろうが。いね~のか?」
勇一の問いかけに、カラフルな面々が顔を見合わせる。
「に~ちゃんって、何ですか?」
軍団の後ろから、間抜けな声が届く。
「白崎、に~ちゃんはに~ちゃんだ。ね~ちゃんが分かるなら分かるだろ」
「男って意味じゃないんでしょ?」
「アホか。ね~ちゃんが女でに~ちゃんは男だろうが。他に何がある? ガキでも知ってるぞ」
「処理してくれる、って仰有っていたので…。あのう、どうしてそこでに~ちゃんが出てくるんですか?」
その発言に、この新入りは何を言い出すんだとカラフルな顔の軍団が一斉に白崎を振り返った。
「そりゃ決まってるだろ。女に処理してもらって喜ぶヤツもいれば男にしてもらった方が嬉しいヤツもいるだろうからな」
「えぇえぇっ! それってホモじゃないですか! 組長は、この組にホモがいると仰有るんですか!?」
驚愕の声をあげる白崎に、その場にいた全員が凍り付く。