その男、激震!(55)

さすがに気付かれたと分かったらしい。
直ぐにバッグで下がり方向転換をして対向車線に入り、そのまま逃げた。

「ったく、根性無しが」

ヒットマンの可能性は低いと、軽自動車のナンバーだけ頭にメモした。

「世の中、暇人が多すぎる」

とブツブツ洩らしながら、勇一は時枝の墓へと制限速度プラス5㌔で急ぐ。
10㌔オーバーだと取り締まりのご厄介になるかもしれないので、その辺は慎重に。
ヤクザの組長だからといって、常日頃から法を無視した生活を送っているわけではない。
法を破る行動が多い分、普段は警察のお世話にならないよう意外と気を遣っている。

「チッ、また、変なのが…」

ルームミラーに新たな不審車が映る。
今度は筋モノ御用達の黒塗りセダンだ。
気付いたのが墓地に続く山道に入る直前だったので、山道には入らず直進した。

「げっ、更にもう一台。今日は厄日か?」

逆走で、前方から別のセダンが向かってくる。
このまま行くと、間違いなく勇一の車は前後二台の車からサンドイッチされてしまう。

「ゴールド免許がブルーになったら、テメェら恨むゾ」

前方からの車と衝突ぎりぎりで勇一がハンドルを切り、対向車線に入る。
はなから勇一の車と衝突する気だったのか、減速してなかった二台のセダンが、勇一の車が消えたことで派手に衝突した。

「コンパクトカーの小回りを舐めるなよ」

直進してきた道を戻り、今度は山道に入る。 
それから数分後、勇一はやっと時枝の墓に 辿り着いた。