その男、激震!(54)

「…どこの暇人だ? あ?」

たまに自分でハンドルを握るとこれか?
それらしくない車種を勇一は選んだつもりだった。
1300CCクラスの街乗りカーだ。
スモークだって貼ってない。
車体の色も淡いスモーキーピンクだ。
この車も桐生の所有物である。
時枝が組長っだった時に、無駄を省くということで、外車の一部が燃費のよい国産のコンパクトカーに変わった。
いつ弾が飛んできてもおかしくない世界なので、ガラスだけは特注だ。
とはいえ、幹部クラスが乗ることはない。
下っ端がママチャリ替わりの足として、利用している。主な用途は、桐生関連の風俗嬢の送迎だ。
そんなキュートな車を、着流しで眼光鋭い男が運転すれば、人の視線を惹き付けることもあろうというもの。
百戦練磨のくせに、どこかが抜けている男、それが桐生勇一だ。
その勇一が運転するキュートな車をこれまた可愛い軽自動車が一台つけ回していた。
ただならぬ雰囲気なのは、軽自動車がスモーク貼りで、運転しているのがオールバッグに真っ黒なグラサンをしている男だからだ。

「ヒットマンにしては、ダセ~やろうだぜ。昼日向、軽から俺を狙うアホがいるとは、思えね~けど、ちょっとしつこくね~か?
探偵か? だったら、ヘボだな。ターゲットに気付かれるってありえね~だろ。
…勝貴が俺の浮気調査を依頼したとか?
ま、それはあり得るかも。何せ、俺、愛されちゃってるし~~~~」

いや、そこまで愛されてる気は…しない。
いやいや、俺様は、愛されすぎてるからな。
勝貴が俺を疑う訳ないか…。
この発想…虚しくね?

「ちょっくら、仕掛けてみるか」

黄信号に引っ掛かるのを待って、勇一は急ブレーキを踏んだ。
キキキキーーッ という音がして、後続車が勇一の車に追突する寸前で止まった。