その男、激震!(53)

「知るか! そんなことより、ここからが本題だ」

まだ聞きたいことがある。
勇一は気持ちを無理矢理切り替えた。

「なんです?」
「うちの組の白崎、あれ拾ったのお前だっていうじゃねぇか。どうして桐生に押し付けた」
「白崎? 誰ですかそれ」
「ちッ、覚えてね~のか? お前がスカウトしたって言ってたぞ」
「スカウト? そんな面倒なこと、するわけないでしょ。だいたい、善良な一般市民が、ヤクザをスカウトなんてするわけないでしょ。社会のゴミを増やしてどうするんですか。馬鹿馬鹿しい」
「はあ? 善良な一般市民って誰のことだ?」 

ここぞとばかりに勇一が声をあげた。

「それが分からない馬鹿と話するのは、時間の無駄ですね。お帰り下さい」
「まだ、話は終わっちゃいね~よ。うちに入れたのお前じゃないのか? じゃあ、どうして、お前の名が出たんだ?」
「存じません」

と、黒瀬が答えたところで、潤が失礼しますと入ってきた。

「社長、塩と聖書とにんにくと十字架です」 

潤はまず黒瀬に頼まれた四点を置き、それから勇一の前にお茶と切り分けた羊羹を置いた。

「ふふ、やはり潤は優秀な秘書だね。全部揃ってる。兄さん、命が惜しいなら早く退散した方がいいと思いますよ」
「だから、俺にそんなものは効かないって言ってるだろっ!」
「ゾンビだから、でしたね」
「また、そこに話を戻す気か? 今は白崎の話をしていたんだ」
「白崎? あの、白崎さんですか?」

潤には思い当たる節があるようだ。

「ああ。あまりに使えないから誰が入れたんだと聞いたら、武史の名前が出てきた。なのに、こいつは知らないとほざきやがる。嫁は、知ってそうだな」
「はい、存じています。社長も存じています」
「潤、私は知らないよ?」
「社長、例のアレですよ。香港の…」
「香港? あぁ、アレは白崎って名前だったんだ。ふふ、兄さん、悪いけど何も答えてあげれない」

香港って言えば、アッチ方面だろ。

「……お義母さん絡みか?」
「聞かない方がいいと思いますよ」
「…厄介ごとを背負い込むつもりはね~よ。ただ、一つ確認しておく。もし、白崎の身に何かあれば、それは向こうにとって歓迎すべきことなのか、それとも報復理由を与えることになるのか、っどっちだ?」
「ふふ、向こうが何を指すかにもよるけど、後者だろうね」
「…どうして、そんなもの桐生に押し付けた。此所で面倒みたら良かったんじゃないのか」
「彼はクロセの採用試験に不合格だったので、時枝さんにお願いしたまでです」

答えたのは潤だった。

「特別扱いはしね~ぞ。それでいいな。身の安全も保証できね~ぞ。何かあったらお前が矢面に立てよ」
「もちろん、嫌です」
「お前な……」

冷たい微笑と共にぴしゃりと言われ、勇一は返す言葉を失った。

「話も済んだようですし、お帰り下さい」

黒瀬がにんにくを手に取った。投げるつもりだ。

「折角の羊羹を食わせろ」

投げつけられる前にと、一口で羊羹を頬張った。それをお茶で流し込み、勇一が席を立つ。

「邪魔したな」
「はい、とっても邪魔でした」

言うと同時に、黒瀬がにんにくを勇一に投げつけた。

「にんにくでキャッチボールする趣味はない」
「ふふ、佐々木にでもくれてやれば。精力増進にいいんじゃない?」
「うちには、絶倫ドリンクがある」

今度は勇一がにんにくを潤に投げた。

「食べ物で遊ばないで下さい。行儀が悪いです」

何故か勇一だけ潤に睨まれた。

「ハイハイ、」

もう用は済んだと勇一は退散した。