その男、激震!(47)

佐々木と大喜のことを直ぐにでも時枝に報告したかったが、勇一は墓地には行かず、桐生組の事務所に向かった。
組長としての仕事を放って時枝に報告しようものなら、時枝に叱られるのは目に見えている。それに報告前に確認したいこともあった。

「なんだ、まだ誰も来てないのか」

鍵が掛かっていた。
そろそろ若手の一番乗りが来る時間だが、勇一の方が若干早かったらしい。
そもそも、朝食の時間は早いが、食後直ぐに本宅を出ることは少ない。
佐々木と共に重役出勤だ。
建物内に入る鍵は持っていたが、事務所の鍵を持ち合わせてなかった。
最近、事務所の鍵を取り替えていた。
暗証番号の電子キーとシリンダー式の二つの鍵になっている。
電子キーの暗証番号は知っているが、それだけでは開かない。シリンダー式の鍵を差し込まなければ、中に入れない。
あ~あ~、と勇一はドアを背もたれに腰を降ろし、一番乗りならぬ二番乗りがやって来るのを待った。

「てめぇ、何者だ!」

威勢のいい声と共に、ウトウトしていた勇一の頭に硬い物が突き付けられだ。

「ぁあ?」

勇一が顔を上げた。

「組長!」

大喜と同じ年の新入りが、勇一の頭に銃を突き付けていた。

「その通り、ここの組長だ。文句あるか? 白崎」
「いえっ、滅相もありませんっ!」
「だったら、いい加減その銃を降ろせ。てめぇ、俺の頭ぶち抜く気か?」

驚いた白崎は銃口を勇一に向けたままだ。

「とんでもありませんっ!」

とは言ったものの、組長に銃口を向けてしまった白崎はブルブルと震え、そのまま固まっている。

「だから、降ろせって」
「…組長ぅ~、身体が動きません…」
「ったく、ガキに銃など持たせたのは誰だよ。あとで厳重注意だ」

勇一が白崎の手首を掴み銃を取り上げ、そして、ゆっくりと立ち上がった。

「なんじゃ、これ。モデルガンか」

見たこともない型の銃だった。

「ち、違いますっ!」
「そうだな、モデルガンにしては安っぽい」
「水鉄砲です!」
「はあ?」
「はい、水鉄砲であります!」
「おいおい、ここは組は組でもヤクザの組だぞ? 保育園と間違ってやいないか?」
「大丈夫ですっ! 水鉄砲でも、中に特殊な薬剤要りの溶液を入れれば、十分武器になりますっ!」
「じゃあ、なにか。この中には特殊な液体が入っているんだな」
「…いえ、水です。液体は…そのうち…調合します」
「おい、新入り、お前、俺をからかっているのか、バカにしているのかどっちだ」
「両方ですッ!」

新入りの白崎が、勇一と正面切って会話することは、組に籍を置くようになってから一度もなかった。
会話だけでも緊張するのに、水鉄砲とはいえ銃口まで突き付けてしまった。
動揺のあまり『両方違います』と否定するつもりが、肯定してしまった。