自分の寝室から漏れ聞こえる大喜の喘ぎ声をBGMに勇一は朝食をかっ込み、終わると木村を呼んだ。
「木村、木村はいるか」
「お早うございます」
現れた木村の目の下には隈ができていた。
その原因が、深夜に帰宅した自分にあるとは、勇一はこれっぽっちも思っていない。
「男が朝から気怠い顔をしてるんじゃねぇぞ。まあ、いい。悪いがここを誰かに片付けさせてくれ」
いつも朝食の片付けをしている大喜の姿がないことを勇一に訊ねる前に、木村の耳にも大喜の艶っぽい声が届いた。
「…承知しました。あのぅ…、あの声、他の者が聞くのもどうかと思いますので、自分が片付けます」
家政婦にも下の者にも聞かせられるような代物じゃない。
木村の判断は正しかった。正しいが故に…
「それもそうだな。ここは木村に任せるとするか。俺は寄るところがあるから先に出る。声が途切れたら、佐々木に今日は休みをくれてやると伝えてくれ」
「…それって、ここでずっと待機をしろと…いうことでしょうか」
「今、入って行けるならそれでもいいぞ」
…木村は墓穴を掘ってしまった。
「無理です。若頭に殺されます!」
「武史じゃあるまいし。そうそう人を殺めるかって」
いや、それは組長逆でしょう。ヤクザは若頭で、元組長代理は素人さんですから…とは、もちらん木村は口にしない。
黒瀬の方が佐々木より何十倍、いや、何百倍も…
いやいや、そんな生やさしい数字で語れないぐらいの恐ろしい存在だと桐生の構成員、特に本部に属している者は実感している。
しかし、佐々木が黒瀬ほど恐怖の存在じゃないからといって、最中の二人の邪魔はできない。
殺されなくても佐々木から恨まれるのは目に見えている。
「な~に、1ラウンド短いはずだから、心配するな」
ハハハ、と勇一は笑いながら、木村一人に後を任せ部屋を出て行った。