その男、激震!(44)

「佐々木、誤魔化すな。聞かせろ」

時枝のこととなると、勇一は些細なことでも聞き流せない。しかも、佐々木の話しぶりからして、些細なことではないのは明白だ。

「時枝のオヤジ、黒瀬さんに強姦された」

佐々木ではなく大喜が答えた。

「ダイダイッ!」

佐々木が慌てたがもう遅い。

「強姦だとぉおお!」

その昔、自分が潤に何をしたかなどすっかり忘れて、勇一が強姦の事実に憤る。

「煩いな。いい大人が朝から大声出すなよ。それぐらい、時枝さんが酷い状態だったんだよ。あんたが一番分かってるだろ。さっき、俺に解説してたじゃん。でも、俺はそこまではされないさ。あの人、そこまで俺に愛はないし」
「愛だとぉおお!」
「一々、煩いな。愛はあるだろ。恋愛じゃなくても、そこは認めてやれよ。あんた、一応兄だろ?」
「…ガキのくせに知った風な口利きやがって。ああ、そうだよ。あいつは俺に心を閉ざしていたガキの頃も勝貴には心を開いていたさ…だからと言って…許せるかっ」
「ケツの穴の小さい男だな。オッサンと同じかよ。あんたにいまだわだかまりを持ってるオッサンと何ら変わらないな。ふん、黒瀬さんの悪戯なんて今の俺にはどうってことない」

じゃあな、と大喜が二人を見捨てて座敷を出て行こうとした。

「…いかせね。これ以上…勝手は許さね…」 

唸り声がしたかと思うと、佐々木が大喜の足に向かって滑り込んだ。
足首を掴まれ、バランスを崩し、大喜はその場でひっくり返った。

「ぃったぁ! 何するんだよっ」
「もう、十分だ。一晩好き勝手させたんだ…もう、十分だろ。これ以上、俺から離れるなっ、ボンのところへは行くなっ!」
「って、また、同情され生殺し状態で、側にいろっていうつもりかっ! 俺にだって性欲ぐらいあるんだよっ! このバカゴリラッ!」

佐々木の突拍子もない行動に、勇一は黒瀬への怒りどころではなくなった。
―――ガキにまでバカゴリラって言われてりゃ、世話ないな。

「そんなに飢えてるなら、俺がヤッてやるっ!」

佐々木らしからぬ発言だった。

「なんだよ、そのいい方っ! お情けでしてもらわなくて、結構だっ!」
「イヤなことも思い出したいなら、思い出せばいいんだっ、このクソガキ。人が心配してやってるのにっ!」

どうしたんだ、佐々木の野郎。
急にスイッチが入ったな。それだけ武史の元が心配なのか?
 …つまり、それって、勝貴が余程酷いことをされてたということじゃ…
武史のヤロウッ!
逆ギレした佐々木を見て、また勇一に怒りが戻りつつある。
が、戻り切る前に目の前の事態が進んだ。