いつにも増して、険呑とした空気が流れている。
普段より一時間遅く始まった朝食だが、誰一人、口を開こうとしない。
解説するならば、ここは桐生本宅座敷。
時刻は午前七時を回っている。
一時間遅れての朝食開始となったのは、昨日怒濤の一日を過ごした勇一が寝坊したからだ。
朝の膳を前にして座っているのは組長の勇一、若頭の佐々木、そして大学生の大喜の三人。
つまり、この三人が黙々と箸を口に運んでいる。
時折、視線だけが動く。
佐々木は『ダイダイに悪戯してねぇだろうな、組長』という探りの視線を勇一に向け、
大喜は『まだ答えが出ないのか?』と佐々木を睨み、勇一はそんな二人の様子を交互に窺っていた。
「…鬱陶しいよな」
ボソッと大喜が洩らす。
「何か言ったか?」
聞き取れていたが、勇一はワザと聞き返した。
「ご馳走さま、と言ったんだ」
大喜が箸を置いた。
「…半分しか、…食べてないじゃないか」
佐々木が大喜の機嫌を損ねないように気を遣いながら言った。
「他に言うことないわけ? あ~あ、オッサンの顔見てると、イライラするっ。やっぱり、此所を選んだのは間違いだったわ。俺、黒瀬さんとこに厄介になる」
食べ残しの朝食が並んだ膳を片付けながら、大喜が言った。
「ダメだッ!」
「やめておけ」
佐々木と勇一が同時に反対の声を挙げた。
「二人には関係ないだろ」
ムッとした表情で大喜が二人を見る。
「ボンは駄目だッ! 組長よりタチが悪いっ! 危険過ぎる!」
佐々木が必死に訴えた。
「そうだ、あいつはやめとけ。あいつの思考からすると、佐々木と上手く行ってないお前に何するかわかんね~ぞ。あそこは、嫁もずれてるからな。下手すると二人掛かりで犯られるぞ」
勇一が佐々木を援護する。
「ダイダイだって知ってるじゃないか。組長が行方不明になったばかりの時枝さんに、ボンが離れで何をしたか。同じ事されたらどうするんだッ!」
「は? ちょっと待て、それは何の話だ?」
「え…っと、何かありましたか? とにかくボンのところは駄目だ」
ヤバイ、と佐々木が慌てて話を反らそうとした。