その男、激震!(41)

 

もちろん、佐々木だって覚えている。時枝の悲惨な姿もその後の別居騒動も。
第一、間違った愛情のおかげで、迷惑を被ったのはこの佐々木だ。
行きたくもない風俗に付き合わされ、酷い目にあった。

「…同情じゃない」
「じゃあ、どうして抱かない? あ?」
「…嫌な出来事を…思い出させる行為だ…辛いことは、思い出させたくない…」
「バカか。いや、バカだ。ガキもここは俺と同じ意見だろ」

心底呆れたという顔で、勇一が大喜に同意を求める。

「オッサンはあんたと違ってバカじゃない。でも、最悪だ。…前だって、同じ事あった…。こいつやら黒瀬さんからの悪戯含めると、結構な数だよ。でも、そんなこと言わなかった…。思い出したくないのは、俺じゃなくて…オッサンだ」

大喜がベッドから飛び降りた。

「だから、オッサンはこいつとも元の関係に戻れないんだよ。思い出したくないこと、思い出すからな」

大喜が寝室の照明を点けた。パッと明るくなると、佐々木の情けないパジャマが姿が一層際立つ。

「…ダイダイ、何をしてるんだ」

忙しく動く大喜に、佐々木が声を掛ける。

「見て分かるだろ。取り敢えずの着替えをかき集めてるんだ」

「ちょ、ちょっと待て。お前、まさか」

慌てたのは、勇一だ。
二人を合体させるためにわざわざ忍び込んできたというのに、これじゃ、逆の結果だ。

「しばらく別居だ。オッサンが、気ぃ遣い過ぎて俺を抱けないのか、自分が思い出すのが嫌で抱けないのか、ハッキリするまで別居だ」

言いながら、大喜は作業を続ける。紙袋があっという間にパンパンになった。

「別居って、実家に戻るのか」
「迷惑だろ。この前も心配掛けたし。心配するな。オッサンの目と鼻の先にいるから、俺を見ながら、ゆっくり考えてくれ。行くぞ、アホ組長」
「ダメだ、ダイダイ」

目と鼻の先といえば、本宅内だろう。
佐々木が慌てて引き留めようとベッドから出る。
だが、慌てすぎて、パジャマの裾を踏んでしまい、派手に転けた。
紙袋とシュウちゃんを抱えたパジャマ姿の大喜が、寝室を出て行く。
慌てて、勇一がその後を追う。
そして、更にその後をパジャマがずれて半ケツ状態の佐々木が追った。