「ボンを怒らせるようなことに心当たりあるか?」
自分の住まいに戻った佐々木が大喜に訊ねた。
「俺の存在自体が、ウザイんじゃないの? だいたい俺、猿呼ばわりで人間に思われてないし。う~ん、心当たりって言ったら、朝食の件ぐらいかな~。黒瀬さんに何か言われたの?」
少しぐらい黒瀬の機嫌を損ねてたぐらいじゃ大喜は気にしないが、今は就職が掛かっているので何かあるなら早めに対処した方がいいだろう。
「バカって言ってたらしいから…」
「俺がバカだって? 猿とバカじゃ、どっちが酷いんだ? オッサン、どう思う?」
「ダイダイ、問題はそこじゃない思う。三バカらしい」
「三バカ? なに、それ」
「組長と俺とダイダイで三バカだと」
「黒瀬さんが、そう言ったの?」
「ああ。組長がボンから言われたらしい。三バカに関わりたくないと」
それを聞いた大喜が吹き出した。
「そりゃ、いい。あの人も上手いこというよな~。確かに三バカだ。黒瀬さんや潤さんからしたら、問題児の三人だろうからな。特にオッサンとバカ組長は酷いよな。俺なんか問題児でも桐生の組自体にはそんなに迷惑かけてね~けど」
「俺も迷惑はかけてないだろ」
「バカ組長だけが迷惑かけてるって、言いたいの?」
「いや、…別に組長が迷惑かけてるとか、そういう意味じゃない…」
「あ~あ、大人は本音を隠すから嫌だね~。今日だって突然姿消したから、イライラしていたくせに」
「イライラもしてない。無責任だと思っただけだ…あっ、」
慌てて佐々木が自分の手で口を塞いだ。
「別にいいんじゃないの? 確かに無責任だと思うし。だいたいオッサンと上手くコミュニケーション取れてない段階で、組の人には迷惑だって言うの。桐生の組員も大変だ~。トップ二人の顔色と空気を覗いながら仕事しているだよな。その上、急に組長が不在になるって自覚なさすぎ」
「…前言撤回する。俺も組長も組には迷惑かけております。だけどな、それは…」
「俺のせいにはするなよ」 「しません。…寝るか、ダイダイ」
「寝よう…か?」
寝るという佐々木の言葉に、今日こそはと期待を持った大喜だったが、また本日もその期待は打ち砕かれた。
佐々木と大喜の間には谷も山も溝もないが、代わりに大きくてふかふかのシュウちゃん(テディベア)が昨夜同様でんと横たわっていた。