その男、激震!(28)

「…意地悪っ、」
「それは心外。お仕置き好きの潤の期待に応えてるだけ。意地悪な私は嫌い?」
「…じゃ、ないっ、」
「ん? 聞こえない」
「…き、らいじゃ…っ、ない、…けど、今は、きらいっ」
「そうか、潤は私が嫌いなんだ。哀しくて、生きていく気力が失せたよ」 

黒瀬がベッドに腰を降ろすと顔を両手で覆った。

「私は有頂天になりすぎていたのかも。いつの間にか私と潤の間には、大きな壁ができていたんだね」 

黒瀬のぼやきが潤の耳にも届いたが、潤はそれどころではなかった。快感も強すぎると凶器になる。
しかも機械が相手だと加減をしらない。
身体を支える足首が揺れ、膝が泣き、そして、遂に――

「やっ!」 

鏡に突進するように、バランスを欠いた潤の身体が傾いた。

「ヒッ」 

鏡に潤の額が直撃する寸前、「!」 潤の身体がフア~っと宙に浮いた。

「潤が私が嫌いでも、私は潤を愛することしかできないからね。潤をこの腕に抱くだけで、ふふ、私の気力復活」 

見てないようでしっかり潤の様子をチェックしていた黒瀬が、俊敏な動きで潤の危機を救った。

「――黒瀬っ、…バカァ~~~ッ」 

黒瀬を確認すると、潤の目から大粒の涙が転がり始めた。

「…怖かった~~~、い、やぁあっ、」 

ホッと安堵したのも束の間、ベッドに放り込まれた潤の体内から乱暴に潤の指とローターが黒瀬によって引き抜かれた。

「嫌いの次はバカ?」
「…意地悪ばかりするからだ」
「潤が可愛いのが悪い。それに、お仕置き好きなのは、私より潤じゃない?」
「…でも、今日は…本当に辛かった。怖かった…。指抜けないし…、辛いのに体勢変えられないし、ローターは激しく動くし…、鏡で額割るかと思った。想像しただけで、痛いよ」
「もし、私が側にいるのに助けなかったら、潤は私を本当に嫌いになった? 軽蔑した?」 

潤の涙を黒瀬が指で掬いながら訊いた。

「…わかってるだろ。言葉にしなくても」 

潤を傷を負わせて、傷つくのは潤よりも黒瀬だ。
もし、潤が鏡の直撃から助けなかったら、それは黒瀬の自傷行為と同じ意味になる。
潤ではなく、自分自身を傷付けたいという表れだろう。
そんな黒瀬を、例え自分の顔に傷が入ったとしても、潤が放っておけるはずがなかった。
潤が黒瀬を本当の意味で嫌悪することは有り得ない。

「ふふ、そうだね。じゃあ、もっと酷いことするかも」
「して。…今夜はお仕置きだろ?」 

泣いたばかりの潤んだ瞳で潤が黒瀬を誘う。