「咳き込むほど、怒るなって。そんなに怒ると身体に障るぞ」
勇一が時枝の背中を大丈夫かとさすった
「俺は妊婦じゃない」
すかさず、時枝がその手を払った。
「武史という複雑過ぎる弟を持っている割りには、他人のことには無関心過ぎるぞ。他人といっても、佐々木さんはお前の右腕だっていうのに…。勇一は、佐々木さんを軽視し過ぎだ。あの人に、俺がどれだけ助けられたと思っているんだ! その佐々木さんの大事にしている大森に……はあ…スマン」
「ん? どうした?」
「…劣化バージョン勇一のしたことで、お前を責めるのは筋違いだった。許してくれ。最低なのは、俺だ。勇一が一番辛いのに…。ただ、俺の言いたい事は…、迷惑を掛けた人達に、最大限の償いをしないとならないだろ、ということだ。詫びじゃなくて、償いだ。もちろん、お前が悪いんじゃない。だけど、責任はあるだろ?」
「ああ、もちろんだ。謝るな、勝貴。大森の件は、全部俺が悪い。弁解のしようがない。もちろん、簡単に許してもらえるとも思ってない。だけどよ、あの二人の今の状態ってなんだ?」
「はあ…そこについてのお前の鈍さには、怒ってもいいよな?」
ボコッと、時枝の拳が勇一の頭に直撃した。
「って、…なんだよ、怒ったり謝ったり、また怒ったりって、勝貴、忙しすぎだろ。だから、なんなんだよ
「佐々木さんと大森は、ヤッてない。あれ以来、一度も、ヤッてない」
「ヤッてない? 何を? ケンカか? 仲いいぞ。大森が戻ってきてから、前以上に佐々木のやろう、大森にベタベタだ」
「だがら、その仲の良い二人が、ヤッてないんだ。ベッドに一緒に入っても、ヤることしてないんだ」
「はあ? それって…」
「セックスしてない、って言ってるんだ! 分れ、この度アホ」
「――え? マジか…? 佐々木、遂にインポか?」
二度目の鉄拳が、勇一の頭に飛んだ。