その男、激震!(19)

「ちょっと待ってろ」 

時枝が鍵を取りだし、シャッターを解錠した。
それからシャッターを開けると、自動ドアらしいガラス戸が現われた。
だが、自動では開かないドアらしく、時枝が手で開いた。

「自動ドアだよな?」
「電源をオフにしてるから、手動ドアだ。入ってくれ」
「へ~~~。元、何屋だったんだ?」 

貸店舗の看板通り、中は普通の住居ではなかった。
ガランとした空間に、備え付けのカウンターがある。
そのカウンターがちょっと特殊で、病院の受付窓口のような造りだ。 

「薬局。調剤薬局だったらしい」
「なるほどね~」 

カウンターの横に間仕切りがあり、スタッフがお茶の為に使っていたのか、一般家庭用の流し台があった。
そこをキッチンとして時枝が使用しているらしく、鍋やら食器やら洗面道具が並んでいる。

「トイレがそこで、部屋はこっちだ」 

店舗スペースの奥に、八畳の和室があった。
ベッドはないものの、テレビ、エアコン、パソコン、テーブルと、一通りは揃っていた。

「ホッとしたぜ。ちゃんとした部屋じゃね~かよ」 

靴を脱いで上がり込んだ勇一が、部屋をグルッと見渡した。

「当たり前だ。ちょっと変った物件だが、快適だ。…それにしても、お前ってヤツは…」 

はあ、と時枝が肩を落とした。
繋げたかった言葉は、『俺の我慢を無にしやがって』だったが、言わなかった。
呆れながらも、こんな僻地まで飛んできた勇一の行動が、心の底では嬉しかった。

「俺ってヤツは…? いい男だろ」 

似合わないウィンクを勇一がするも、そこに時枝は反応しなかった。

「指、見せてみろ」
「ほら、この通り。十本揃ってるぜ」 

勇一が両手を広げて見せた。

「二本とも動くのか?」 

勇一の左手の小指と薬指の縫合痕に時枝が触れた。

「まあ、ボチボチってところかな」 

その二本は、勇一自らが切断した指だった。 
再接着後のリハビリで元通りとは言えないものの、関節も動くようにはなっている。

「…感覚は?」
「そりゃ、バッチリ。今も、勝貴に触れられて、興奮しそうなぐらい、感じてる」
「このぉ、度アホがっ! 指触ったぐらいで、興奮とか言うなっ!」
「嘘じゃないモン。ホラ、」 

口を尖らせ子どものように拗ねた口調で言いながら、勇一の取った行動は、『大人』を見せつけるものだった。
左手にあった時枝の手を、自分の股間に擦り付けた。

「なっ、このヤローッ!」 

慌てて手を振り払い、抗議しようとした時枝を、勇一がギュッと抱き締めた。