その男、激震!(16)

 

「勝貴~~~~っ!」

勇一は自動改札機を飛び越えて、その機嫌の悪そうな男に飛び掛かった。

「ぐはっ、…この、ばかッ!」

コンクリートの冷たい床に押し倒された男が、勇一を押し退けようともがく。
だが、それも長くは続かなかった。

「夢だ~。夢みて~だ~…勝貴だっ、本物の勝貴だ~~~っ」

目の前に勇一の顔が迫り来るのを、男は振り払うことができず…

「バカッ、放せっ、離れろっ、…んぁ」

あっという間に男の――時枝勝貴の唇は、視界を覆う桐生勇一の唇に塞がれた。

「ぁ…、…、ん、…」

時枝の腕から力が抜ける。
再び力が戻った時には、その力は勇一を押し退ける為ではなく、抱きしめる為に働いていた。

「お客さま、他の方の迷惑です!」

二人に向けられた駅員の声など、無視だった。
中年の男二人による見る者を羞恥のどん底に落とし込む行為は、やむ気配がない。
ローカルな駅とはいえ、利用客はいる。
混み合う時間帯ではないが、駅構内には人はいた。
最初は時枝が暴漢に襲われていると思った他の客も、すぐに全く別のコトだと理解した。
男同士のキスシーンを日常でそうそう目にする機会もないような田舎だ。
好奇心からか、皆、激しいキスシーンに目を奪われていた。
このままでは更に進んだ行為になるかもしれないと焦った駅員が拡声器を持ち出した。

「いい加減にしなさい! 他のお客さまの迷惑です! 警察を呼びますよ!」

時枝と勇一の耳元で、拡声器を通した駅員の怒号が鳴り響いた。
これにはさすがの二人も、ハッと我に返った。

「…てめ~、このヤロウ~~~」

鼓膜に衝撃を覚えた勇一が、時枝から離れ立上がると、駅員の胸ぐらを掴んだ。

「馬鹿ッ、勇一よせッ!」

慌てて時枝が勇一の手を駅員から引き剥がした。