その男、激震!(15)

「こりゃ、また、中途半端な面してるな」 

特急から降りた勇一は、改札を出る前にわざわざカラス天狗の像を拝みに行った。

「まだ、佐々木の方が男前だ。天狗としての威厳がない。愛嬌はある…」 

威厳とは違った意味で、インパクトはある。
天狗というよりどちらかというとカッパに近い顔だ。
もっとも、勇一がカッパの顔として認識しているものが、他の人間とはずれている可能性は否定できない。

「遅い!」 

よく知った声が、勇一の耳に飛び込んできた。

「早く出て来いっちゃ」 

こいっちゃ? 
濃茶? 

声はそうだが…しゃべり方が変だ。違うのか? 
いいや、この声は…絶対に間違いない!

「とっとと出て来いっちゃ」  

間違い…あり? 違う? 勝貴じゃない? 
勇一の「絶対」は意外にもろかった。 
――だいたい勝貴のはずがないんだ… 墓を最後に会話してない…連絡入れてなかった……俺、やっぱ馬鹿だろっ

「そこの馬鹿ッ、置いて行くぞ」 

だから、自覚してるって…くそっ、誰だっ! 勝貴に似た声しやがってっ! 
勝貴じゃないなら、俺に向かって言ってるわけでもないってか。
じゃあ、他にも馬鹿がいるってことだ。

「何他人事だと思ってるんだ? この駅に馬鹿は一人しかいないっ!」 

違う、違うっ、勝貴じゃないっていうのが違う。
勝貴しか…ありえない。
俺の脳味噌覗いたように返してくるのは、アイツしか有り得ないっ! 

勇一が天狗の像から視線を改札口に移動させた。
自販機の死角で顔が見えないが、男が自分に向かって手を振っている。 
その手に吸い寄せられるように、勇一は小走りに改札口に向かった。
小さい駅ながらも、自動改札機が設置されており、その向こうに

「いつまで待たせる気だ」 

眼鏡を掛けた不機嫌そうな男が立っていた。

「勝貴~~~~っ!」 

勇一は自動改札機を飛び越えて、その機嫌の悪そうな男に飛び掛かった。