「こりゃ、また、中途半端な面してるな」
特急から降りた勇一は、改札を出る前にわざわざカラス天狗の像を拝みに行った。
「まだ、佐々木の方が男前だ。天狗としての威厳がない。愛嬌はある…」
威厳とは違った意味で、インパクトはある。
天狗というよりどちらかというとカッパに近い顔だ。
もっとも、勇一がカッパの顔として認識しているものが、他の人間とはずれている可能性は否定できない。
「遅い!」
よく知った声が、勇一の耳に飛び込んできた。
「早く出て来いっちゃ」
こいっちゃ?
濃茶?
声はそうだが…しゃべり方が変だ。違うのか?
いいや、この声は…絶対に間違いない!
「とっとと出て来いっちゃ」
間違い…あり? 違う? 勝貴じゃない?
勇一の「絶対」は意外にもろかった。
――だいたい勝貴のはずがないんだ… 墓を最後に会話してない…連絡入れてなかった……俺、やっぱ馬鹿だろっ
「そこの馬鹿ッ、置いて行くぞ」
だから、自覚してるって…くそっ、誰だっ! 勝貴に似た声しやがってっ!
勝貴じゃないなら、俺に向かって言ってるわけでもないってか。
じゃあ、他にも馬鹿がいるってことだ。
「何他人事だと思ってるんだ? この駅に馬鹿は一人しかいないっ!」
違う、違うっ、勝貴じゃないっていうのが違う。
勝貴しか…ありえない。
俺の脳味噌覗いたように返してくるのは、アイツしか有り得ないっ!
勇一が天狗の像から視線を改札口に移動させた。
自販機の死角で顔が見えないが、男が自分に向かって手を振っている。
その手に吸い寄せられるように、勇一は小走りに改札口に向かった。
小さい駅ながらも、自動改札機が設置されており、その向こうに
「いつまで待たせる気だ」
眼鏡を掛けた不機嫌そうな男が立っていた。
「勝貴~~~~っ!」
勇一は自動改札機を飛び越えて、その機嫌の悪そうな男に飛び掛かった。