その男、激震!(14)

 

こっちか?
自由席の乗車位置に大して並んでないようだ。
指定とる必要なかったな…。

桐生宅を抜け出した勇一は、九州の小倉駅にいた。
新幹線が九州で最初に停まるのが小倉駅だ。
だが、新幹線で東京から九州に来たわけではない。
飛行機で北九州空港まで飛び、そこからタクシーに乗り、小倉駅に着いた。
最終目的地は太平洋側を走る日豊本線のとある駅。
福岡県内で日豊本線を走る特急が最後に停まる駅だ。
但し、それも二本に一本。
特急の停車駅を確認してから乗車しないと、通り越して大分県に入ってしまうらしい。
流行る気持ちがあるから尚更、ヘマはしたくないと、その辺は切符を自販機では買わず、みどりの窓口で購入がてら確認した。
自由席付近でも閑散していたが、指定席付近は更に人がいなかった。
それでも、乗車時刻が近付くと、勇一を入れ計八人が乗車位置に集まった。
乗り込んだ特急内も、ガラガラだった。
つまり、田舎に向かう特急だってことだ。
勇一は今から向かう土地の情報を、詳しく得ている訳ではなかった。
知っているのは、日豊本線沿線にある人口の少ない市だってことぐらい。
福岡県に存在しながらも、福岡市のような人口の多い都市に住む人に尋ねても、『そこ本当に福岡県? 聞いたことない』と返ってくるらしい。
それほど、無名の市らしい。
そんな存在感のない田舎だから…、勇一は決心することが出来た。
出来たが…その決心は意味なかったなと、窓の外に流れる見慣れる景色を見ながら思った。
すでにその決心を自ら砕いてしまっている。だから、今、勇一は特急電車に揺られている。

「…駅まで、ですね」
「何か面白いものはありますかね? 初めてなんですが」

切符のチェックに来た車掌に、勇一が訊いてみた。

「カラス天狗の伝説が残ってますね。駅でも天狗の像が出迎えてくれてますよ」
「そりゃ興味深い」

都市伝説ではなく、田舎の伝説。
興味深いと勇一が思ったのは、天狗の伝説ではなく、そんな伝説が残るような田舎に、論理的な切り口で小言をほざいていた都会育ちの男が生活しているということだ。
もうすぐだ。
あと少しで会える。
どうせなら、天狗ではなくアイツに…勝貴に…出迎えられたい…