その男、激震!(209)

ユウイチも連れて行かれ、一人残った時枝が「はぁぁあ」とそれはそれは深い溜息をつく。
それから「くっ、ハハハ」と周囲の空気を震わせながら笑う。

「まったく、…武史は…相変わらず…優しい …ハハハッ、優しいっ、クソ、笑える…」

一頻り笑ったあと、また深い溜息をはく。

「はぁ~、本当に、分かりづらいけどな。その辺は数年前と全く変わらない。ロンドンが懐かしいな~」

『時枝をハッピーにする理由が私にはないからね』って言ってたくせに、黒瀬が時枝にしたことは真逆だった。
精神的に負荷が多い状況の時枝を気兼ねなく落ち着ける場所に運び、潤やユウイチと会わせた。
さらに今から一人っきりの時間を与えようというのだ。
やせ我慢を止めて泣けというのだろう。
ユウイチを先に上に連れていったのはそういうことだ。

「…この部屋も、噛みあわない武史とのやり取りも、潤の素直な反応もユウイチの感触も……素で過ごせることは有り難い。波瀾万丈も悪くないが……」

鼻の奥が痛い。
目の縁が温かい。

「ここは武史の分かりづらい優しさに甘えさせてもらうとするか……」

なにもかも、と心の中で呟くと、

「クソッタレ―――ッ!」

続けて腹の底からの叫びと大粒の涙と共に、枕を壁に叩きつけた。

 

一方、香港上陸を果たした佐々木と木村の『おつかい組』はというと…
赤褌一丁で仁王立ちの佐々木が、スポットライトと拍手喝采を浴びていた。

 

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