「まちがいございません。噂は本当みたいです。戻って来た桐生の組長さんは、いかれちまってますね。…墓石を触りながら、涙流してブツブツ言ってます」
数メートル離れた所から、勇一の様子を伺っている者がいる。二十代後半ぐらいの男だ。
「この分だと、次男坊が組にしゃしゃり出て来るのも時間の問題かと…はい、また、ご連絡を」
スマートフォンでの会話を終了すると、仕事は終わったと墓地から姿を消した。
勇一はというと、まだ墓石に向かって悪態をついている。
「人が大人しくしてりゃ~、いい気になりやがって」
一体どこが大人しいんだか…。
騒ぐ勇一に、さすがのカラスも呆れているようで、鳴くのをやめてしまった。
『誰がいい気だと?』
聞き覚えのある声が…
「か~つ~~き~~~~~っ!」
声の主の名を叫ぶ。
勇一の耳に、その声はハッキリ届いていた。
『ふん、男だけじゃなくて、女とも懇ろかもな』
「…なんだと~~~っ」
『俺が何をしようと、全部お前のせいだからなっ!』
「…うっ、…全くその通りです」
『酒だって、飲んでやるっ』
「…ま~さ~か…本当に、ソッチで飲んでるのか?」
『悪いかッ! こっちの酒は、美味い…ヒック…文句ないよなっ!』
「…勝貴…、あのう…、酒は程々に…」
『文句ないよな!』
「…あり、…ません……って、言うと思ったら大間違いだぁあああっ!」
『二度と俺を呼ぶなよ、バカ勇一』
「勝貴?」
声がしなくなった。
「勝貴???」
勇一の耳に届いていた時枝の声が消えた。
「お~~~い、勝貴――ッ!」
墓地に勇一の声だけが轟いた。