その男、激震!(10)

 

株式会社クロセ本社をあとにした勇一が、次に向かったのは桐生家の墓だった。
しかし、最終目的地は、桐生の墓の真横に建てられた時枝家の墓だった。
元々、時枝家の墓は別の場所だったが、勇一が改葬手続きをし、桐生の隣に移したのだ。

「おじさん、おばさん、新しい場所には慣れましたか?」

線香と花を手向け、勇一が時枝の両親に話掛けた。
二人は洋食屋を営んでいたが、時枝が高校生一年の時に、店に突っ込んできたダンプカーにより命を落とした。

「ヤクザもんの墓の隣など、嫌で堪らないでしょうけど…どうか、俺の我が儘と思って、許してやって下さい。もっとも、俺が勝貴にしたことを、許してもらえるとはこれっぽっちも思っていません。――大事な息子さんを…俺のせいで…何度も辛い目に遭わせて、挙げ句に…くっ、」

腰を落として墓前に参っていた勇一が、奥歯を噛みしめた。
こみ上げて来る自責の念に、目の中まで水っぽくなる。
それはすぐに溢れ、勇一の頬を伝り落ちた。
勇一が、墓石の側面に手を伸ばす。
そこには愛してやまない男の戒名が刻まれていた。
その名前を愛撫するように、勇一の指がなぞった。

「…勝貴、――いるんだろ?」

返事はない。

「……そこで楽しくやってるのか?」

カアカアと、カラスの鳴き声だけが勇一の耳に届く。

「……まさか、俺がいないからって、大酒飲んで、男と懇ろになってるんじゃあ…」

まさかな。
まさか…でも、有り得る。
前科がある。
勇一の顔付きが一変した。
情け無く頬を濡らしていた男の顔に、疑心暗鬼の表情が浮かんだ。

 

 

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