その男、激震!(8)

株式会社クロセの本社ビル。

「うわっ、」 

昼の休憩時間が終わり、社長室から出てきた潤の腕を何者かが掴んだ。

「シッ、しずかにしろッ!」
「―――組長さん?」
「ちょっと、こっちこい」
「――なに、この昨日と同じ展開…うそぉ」 

デジャブ―の次元じゃない。
なんとなく経験したような…ではなく、時間帯から声の掛けられ方まで昨日と同じだ。
違うのは、声を掛けてきた人間が、佐々木から勇一に変わったという点だけだ。

「昨日―? なんのことだ? それより、武史にちょっと話がある」
「朝食のことですか?」
「知ってるのか…。なら、話は早い。武史に会うまでもないな。撤回させろ」
「直接どうぞ。十分程度なら、社長も時間あります。佐々木さんといい、組長さんといい、全くヒマなんですね。仕事ありますので――、」「――ッてえーっ」 

潤が勇一の靴…ではなく、草履履きの足をグイッと踏みつけた。
突然、自分の足の甲を襲った衝撃に、勇一の手が潤の腕から離れた。

「失礼します」  

軽く頭を下げると、潤は勇一を一人置いて行ってしまった。

「――ったく、凶暴さまで、勝貴に似てきやがって…」 

は~と、勇一は深呼吸とも溜息ともとれる息を吐くと、自分の弟の執務室―株式会社クロセの社長室のドアノブに手を掛けた。

「用事があるなら、さっさとどうぞ」 

不意に開いたドアに身体を持って行かれ、勇一は見事に転けた。
ドア板で頭を打つというオマケ付で。

「勝手に頭を打たないで下さい。あなたの場合、何かと都合のよい頭なんですから。また、勝手に記憶障害になられても困りますし」
「なるか―ッ」 

前がはだけた着流しを整えながら、勇一はソファに向かった。

「誰が座っていいって言いました?」
「勝貴」
「ふ~ん、そうきましたか。まあ、時枝なら客にソファぐらい勧めるでしょうけど」
「なら、問題無いな」 

どかっと勇一がソファにふんぞり返った。