「ダイダイ、いい加減にしろッ。――ぁあ~、組長、許してやって下さい」
朝食の膳を横にやると、佐々木が勇一の方に向き直し、畳みに頭を擦り付けた。
「オッサン、頭下げるのもいいけどな、謝罪するなら一度ぐらいバカ組長の顔見ろよ。時枝さんがこの場にいたら、俺の礼儀よりもあんた達二人の態度を問題にすると思うけど。あ~、この味噌汁、ウマイ」
向かい合っているものの、頭を下げた佐々木は勿論だか、勇一の視線も佐々木が顔を上げても重ならないよう、微妙にずれている。
「タマ預け合っている組長と若頭ゴッコする前に二人ともさっさと食べろよ。これから毎日、一緒に食うんだから、バカ組長も諦めてさっさと食え」「毎日? クソガキ、どういうことだ?」
「文句あるなら、自分の弟にどうぞ。好きこのんで朝からあんたの顔を拝みに来ているわけじゃない。言っただろ、気遣いなんかでここにいるわけじゃない。オッサンもガツンと言ってやれ」
「ダイダイッ!」
佐々木が立上がると、大喜の首根っこを掴んだ。
「お先に失礼しますっ!」
ご飯茶碗と箸を持って座っている大喜を、佐々木が引き摺る。
「まだ、食べ終わってない! オッサン、全然食べてないじゃないかっ!」
「俺は、今日はいい! お前ももう十分食ったはずだ。行くぞ」
「離せ―ッ!」
「行くんだ!」
「逃げるのか、オッサン! 見損なったぞっ!」
大喜の言葉は図星だった。
言い当てられ、一瞬、佐々木の足が止まった。
「組長、朝からお騒がせして、申しわけございません。ですが、大喜が言ったことは本当です。ボンから、朝食を一緒にとるよう頼まれていますので」
勇一に背を向けたまま、佐々木が言う。
そして、また大喜を引き摺って歩き出した。
「違うっ! 頼みじゃねぇッ。脅迫だっ! 俺の就職が掛っているんだ。明日も来るから、逃げるなよ。バカ組長ォオオオッ!」
引き摺られる摩擦熱で尻が痛かった大喜は、その痛みへの腹いせも兼ねて勇一の名前を叫んだ。
もちろん、箸で勇一の顔を指しながら。