その男、激震!(171)

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「イテッ!」

木村の首を絞める佐々木の後頭部に、衝撃が走る。
硬い何かが頭にぶつかり弾けた。
佐々木の手が木村の首から自分の後頭部に移動した。
髪についた汁と破片から自分の頭を襲ったのがリンゴだと分かる。

「テメェがやったのか? 兄(あん)ちゃん」

佐々木が振り返り、檻の中で口笛を吹く(実際に音は出てないが、そういう格好の)ゴリラに向かって静かに訊いた。
なんのことだ? と、しらを切る態度のゴリラに佐々木がブチ切れる。

「兄ちゃん、食べ物を粗末にしちゃあいけね~って、母ちゃんに習わなかったのか? 人間だろうと獣(けもの)だろうと、そこは同じじゃないのか? それとも檻の中だと餌の心配はないから、少々粗末にしても許されると?」

…さっきのゴリラが俺を助けてくれた?  
アイツ…実は良いヤツじゃん!

「習いました。ええ、習いましたとも。餌を食べようとして手元が滑っただけです」

木村がゴリラの援護にまわった。

「お前等、グルか?」

佐々木がゴリラから木村へと視線を戻す。

「どうして、俺とゴリラがグルなんですかっ! それより、若頭、さっきのは嘘ですから!」
「浮気じゃなくて本気だったとでもほざくつもりか?」
「違います! 俺はダイダイに手を出していません! 寝とぼけた若頭を起こすために嘘をつきました! 申し訳ございません!」

佐々木の手が木村の首に戻ろうとしたので、そうならないようにと木村が必死で訴える。

「本当か? 本当に手を出してないなら証拠を示せ」

そんなものに証拠などあるかよぅ、そんな無茶な…と、木村が泣きそうになる。

「手を出そうと思ったことは一度もありませんっ。あんなくそガキのケツを掘る趣味はありませんし、掘られたいとも思いません! そんなこと実行するのは若頭ぐらいですっ。俺が惚れているのは唯一、」

何故か嫁の名前が言葉として出てこない。
違う名を口にしそうになる。

「どうして、そこで詰まる? やはり、てめぇ…」

俺か? 俺に惚れてるんだろ、と佐々木の勘違いに拍車が掛かる。

「…」
「…」

結局二人とも口を噤んでしまった。
変な空気が流れること数秒。
佐々木にリンゴを投げたゴリラが「何やってるんだ」と人間のような咳払いをする。

「まあ、あれだ…それだ。ダイダイはくそガキじゃないから、言葉には気を付けろ」

木村から下りた佐々木が、頬を指で掻きながら言った。

「はい、気を付けます。申し訳ございませんでした…その、いろいろと…」
「…そうだな、いろいろと、な。ハア…早く陸に上がりてぇな」
「さっさとおつかい終わらせて、帰国したいです」

時枝と勇一が過去と正面から対峙しようとしている中、佐々木達おつかい組は「平和」な時間を過ごしていた。

 

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