ルーシーに首ったけ②(その男激震番外編)

「もう出れる?」

報告書をまとめていると、背後から中島の声と匂いがした。

「ああ。これで最後だからちょっと待って…よし、終わった。行こうぜ」

腰をあげ、中島の肩をポンと叩く。

「トノ、鞄は?」
「ロッカーに置いていく。スマホと財布と鍵だけあればいいだろ。飲みながら仕事する気はない」
「う~ん、そういう問題?」
「そういう問題。出ようぜ」

二人一緒に会社を出る。
俺達の勤める会社は一流商社クロセの子会社で給与と待遇は他社より良い。
俺達のいる部署はアジア向けの国内衣料ブランドの売り込みだ。
俺と中島の仕事は外国との交渉とは無縁で、国内のまだ知られていないブランドやメーカーの発掘だ。
チームを組んでやることもあれば、単独で動くこともある。
入社三年目にして、二人ともやり甲斐のある仕事を任せてもらえている。
タイプが違うが二人とも仕事は「できる」方だと思う。

「お目当ての店に行く前に、軽く食事していこう」

という中島の提案でまず焼き鳥屋に寄ることになった。

「それで中島の行きたい店って、敷居が高いのか?」

少し煙い店でカウンターに並ぶ。

「そういう店じゃないよ」
「じゃあ、どういう店? キャバクラとか? その手の店は俺は確かに詳しいが」
「何の自慢だよ。違う違う」
「ふ~ん、そうなんだ。ま、いい。美味い酒が呑めれば俺はそれでいい」
「もう少し訊けよ」
「教える気ないくせに」
「お見通しって感じ」
「だったらどういう店が教えろ」
「う~ん、教えない」
「ほらな」

意味のない会話も楽しい。
次に連れて行かれる店がどうであれ、その後はこの同僚を持ち帰る気でいる。
二人でビールをジョッキで一杯ずつ、焼き鳥計二〇本、唐揚げを一皿と鳥尽くしの食事を終え、店を出た。

「美味しかった~腹いっぱい」
「中島、そんなに食べてない」
「トノが食べ過ぎなんだよ」
「そうか? 普通だろ。むしろ少ない」

そこからはタクシーで移動。
中島の誘導でお目当てだと称する店につれて行かれた。

「普通の店じゃん」

ところどころ剥げた塗装の木製ドア。
BARリリィと小さくプレートに書いてある。

「こんばんは~」

中島の後から店に入る。

「いらっしゃい。あら、中(なか)ちゃん今日はお連れさんとご一緒なの」

太い声に出迎えられた。
あぁ、そういうことか、と声の主を見てわかった。
かなり気合いの入った『女性』が俺達に笑顔をみせる。
性別は俺達と同じ男だ。
どう贔屓目(ひいきめ)にみても「綺麗」とか「美人」には化けていない。
うっすらとヒゲの剃り跡が化粧の上から透けてみえる。
ようはオッサンの女装なのだ。

「お邪魔します」
「あらやだ、少しも邪魔じゃないわよ。遠慮しないで座って座って」

カウンターに招かれた。

「中ちゃん、紹介してよ」

おしぼりを渡しながら、『彼女』が中島に催促する。

「ママ、こいつは俺の同僚。殿里大和」
「トノ、このゴージャスな女性がこの店のママさん」
「いやだ、ゴージャスって。照れるじゃない。やまと、って大きい和のやまと?」
「そうです」
「中ちゃんが陽の人ではるとだから…、惜しい! 点が足りない!」
「太陽ってことですよね」
「やだトノちゃん、鋭いわ。私の考えていることお見通し~~。トノちゃん、ゆっくりしていって」
「ありがとうございます」

中島がこういう店に興味があるってことが不思議だった。

「オカマバーじゃないから、安心して」

俺の心を読んだのか、ママがウィンクしながら言った。

「たまたまママが女装好きの男だっていうだけのバーだから」

それとオカマバーの違いがよく分らない。

「何も心配は。中島が好きな店だという認識をしただけです」
「あら、違うわよ。中ちゃんが好きなのは店じゃなくて、ル」
「ママ~~~~!」

中島がママの言葉を遮った。

「んもう、中ちゃんったら、大声出さないでよ。お飲み物は何にする?」
「俺はいつもの」

慣れない店ではなく、常連として足繁(あししげ)く通っている店に俺を連れてきたことは明白だ。
となると、一つ疑問が残る。
どうして俺に一緒に来て欲しかったのか。

「トノも俺と同じのでいい?」
「構わない。任せる」
「ママ、トノにも同じものを」
「いつものように彼女に任せていいかしら」
「…はい。お願いします」

中島の声が緊張していた。

『彼女って?』
『今にわかる』

嫌な予感がする。
嫌な予感しかしない。

ダイダイです。明日もどこかで更新するらしいです。ランクに参加中です。下のランクバナー(1)(2)で応援〔ポチ〕頂ければ幸いです。

(1)にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ& (2)
Thanks a lot!

トラコミュ
オリジナルBL小説・・・ストーリー系