その男、激震!(197)

★文庫の帯企画、第4弾応募受付始まりました! 今回はズバリ「勇一×時枝」です!
〆キリは8月31日です★

 

 

「ルーシー」

時枝の怒声に、勇一が冷静な声で返す。

「う~~~~、とにかく、勇一さん、緊急事態なんです。この顔では外に出られません」

なんとか気を取り戻した時枝が、再度、勇一に今の非常事態を訴えてみる。

「女子は面倒くせーな。俺はスッピンの女も好きだぞ」
「お前の好みなど、訊いてない! このドアホ! 俺が誰だかバレたらどうするんだ、っていう話だろうが。ルーシーじゃない俺は外に出られないって話だろッ」
「あのさ、ここ、女子トイレって分かってる? 女子トイレから男の怒鳴り声が聞こえるって非常にマズイ状況だと思うぞ」

興奮した時枝を勇一が冷静に返す…again…興奮させているのは間違いなく勇一だ。

「バーカ! ここは男子トイレだ」
「ルーシーちゃん、この階に男子トイレはない」
「――は?」
 
このアホは何を言ってるんだ?

「ここは、男の憧れ女子トイレだ」
「嘘だっ! 女子トイレの隣に入ったはずだ」
「ここの隣は職員用と車椅子用で、こっちは患者と来客用の案内があったぞ。もとエリート秘書のくせに注意力散漫だな」
 
悔しいッ! 
普通、女子トイレの横は男子トイレだろう?
ここまで言われる筋合いはない! 

「…勇一のくせにっ、偉そうに…」
「ルーシーちゃん、男みたい」 
「勇一さんのくせに、偉そうですこと!」
「偉そうじゃないだろ。偉いって言えよ。しかも、男前ときてる」
 
このバカに、付ける薬はこの世にはない。
絶対にない! 
は~~~、女子トイレなら早く崩れたメークをなんとかしなければ!

「――はいはい。その通りです。そんなことより、今、この状況から抜け出すことを考えないと!」
「ここが女子トイレでも男子トイレでも、ようは、化粧ができたらいいんだろ? 簡単な話じゃないか。待ってろ。すぐに手配する」
「…手配するって、勇一さん、化粧品に詳しくないでしょ? クレンジング剤も必要なんですよ?」
「心配するな。俺に任せとけ。ヘルプを要請するから問題ない」
「ヘルプって…誰に」
「潤に頼めばなんとかなるだろ。この病院も知ってるし、問題ない」
「…まだ、勤務中です。彼にこんなことで仕事を放棄させたくありません」
「緊急事態だって言ったのは誰だっけ? いいから任せておけって。俺は頼れる男だぞ」
「ハア…お任せします。―――って、分かってるだろうな、勇一。仕方なく、だ」

ルーシーの声が途中から時枝に変わる。
個室内に二人の人間が存在しているように聞こえる。

「ルーシーと勝貴、二人と会話してるみてぇで面白い。二人同時に3Pして~」
「このドアホッ。 お前はサランさんとジュニアのことだけを考えろ! 俺やルーシーのことは後回しだ」

また時枝がドアを蹴る。

「…あ、化粧道具の手配は先に頼みます…」

と、ここはルーシーの声だった。

「全く、勝貴には参るわ。これ以上お前に惚れさせてどうするんだ」
「勇一さん?」

自分の発言の中に、勇一を感動させる部分があったことに時枝は気付いていない。

「悶死する前に、俺、行く。早急に手配するから安心して『花子さん』やってろ」

と勇一が女子トイレを去ってから、待つこと一時間経過。二時間経過…
そして、冒頭の溜息(注意;196の冒頭です)に繋がるのである。

 

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