ヤクザ者Sの純情!26

『はい、佐々木です、ボン』
「オッサン、俺だけど」
『…ダイダイ? どうしてボンの携帯に、お前が…あっ!』
「約束してたんじゃないの? 黒瀬っていう人と。超怪しーんだけど、この人」
『側にいるのか?』
「いるよ、嫁さんも一緒。仕事中かも知らないけど、早く戻って来てよ~~~。オッサン殺すって言ってるから」

そこで、黒瀬が大喜から携帯を取り上げた。

「三十分以内に本宅に来ないと、殺すよ、佐々木。あと、この猿人質だからね」

黒瀬が佐々木の返事を待たずして携帯を切る。

「きみ、ダイダイって呼ばれているんだ」

携帯から洩れた言葉を黒瀬の耳はしっかり捉えていた。

「大森大喜だ。ダイダイじゃないっ!」
「なるほどね、大が二つでダイダイか。ダイダイ、三十分の間、色々聞かせてもらおうかな? ねえ、潤も興味ない?」
「ある!」

何故か二人の前に座らされ、潤という青年にお茶まで煎れてもらい、二人を前に大喜は佐々木との出会いから話すはめになった。
もちろん、仕事で近づいたことは内緒だ。
それ以外は事実を話した。
黒瀬の目が人間の裏側も見透かしそうで、嘘を付いても直ぐにばれると思った。
映画館で号泣していた佐々木のせいで、バイトが上手くいかなかったこと、その後、偶然酔っぱらいに絡まれているところを助けてもらったこと。
佐々木を尾行したこと。
佐々木の塒に引っ越したこと。
事務所で組長とやりやって、ここで仕事をすることになった経由など話した。

「へえ、その話からすると、ダイダイの方が佐々木を好きなんだ。ヤクザに惚れるって、ダイダイも物好きだね~」
「ヤクザでも、オッサンは優しいぞ。顔は恐いけど、可愛い所もある。あんたも、そういうの、分かるんじゃないの? こんなヤバそうな人間の嫁なんだろ?」

黒瀬に振られた内容を、大喜が潤に振り返す。

「うん、そうだね。黒瀬の良さは俺が一番分かっていると思う。世間の評価に関係なく、俺には一番だ。ダイダイもきっと俺達の知らない佐々木さんの顔を知っているんだろうね。俺、ダイダイの応援する。ダイダイは学生さん?」
「大学一年」
「え? そうなんだ。じゃあ俺より四つ下だ。もしかして、男の人とそうなるの、佐々木さんが初めてとか? それとも元々男もOKの人?」

たいして年は違わないだろうと思っていたら大喜より四つも年上だった。

「俺はゲイじゃない。男はオッサンがはじめてだ」

といっても、本当の意味ではその初めてもまだなのだが。

「…変なこと訊くけど」

潤が急に顔を赤らめ、照れ臭そうに大喜を見る。

「…佐々木さんの、アレって…大きいの?」
「は?」

大喜は素っ頓狂な声をあげた。

「…佐々木さん、上手いのかな…?」
「そんなこと、あんたに関係ある?」
「気を悪くしたら、ごめん。大きいと、ほら、薬とか必要だろ? 俺、色々知ってるから相談して。あと、潤滑油系も色々あるし…ね、黒瀬、佐々木さんに教えてあげた方がいいんじゃない? 佐々木さんそこまで慣れてないと思うんだけど。真面目な人そうだし…」
「ふふふ、潤は優しいね。佐々木の夜の心配までしてあげて」

黒瀬が潤の髪で遊び始めた。指で髪を梳く。
止めろよ、と潤が抵抗を見せるが、本気の抵抗ではなく、目を潤ませ、むしろもっと構って欲しそうな表情だ。
なんだ、この二人は…と様子を見ていると、大喜をそっちのけでいちゃつき始めた。
黒瀬が潤に唇を重ねる。

「オイッ! あんたら、何やってんだよ!」
「何って、キス」

男同士のキスを見せつけられるとは思っていなかった。
少し羨ましい。
佐々木は寝ぼけていないとキスもしてくれない。
金の為に近づいたのだが、佐々木が自分を本気で相手にしてくれないのは、大喜には寂しいことだった。

「…ったく、人の気も知らないで……なんだよ、俺の心配してくれてたんじゃないのかよ……」

目の前でチュ、チュ、と水音まで響かせキスする二人に羨望の気持ちを抱きつつ、いつまで続ける気かと、呆れていた。

「ん、もう駄目だって…これ以上すると、欲しくなるだろ」
「いいじゃない? 会社じゃないんだし」
「だって…そろそろ、佐々木さんが…それに、黒瀬、横にダイダイいること、忘れてる?」

黒瀬が、大喜の方を一瞥した。

「猿に見られても平気だけど」
「人間だって、黒瀬。大学生には刺激が強いよ…ね?」

と今度は潤が大喜を見る。

「他人のセックスを覗く趣味はありません」

ここはハッキリと言った。

「でも、勉強になるかも。ま、そろそろ佐々木も戻るだろうし、佐々木に潤の裸を見せるのは嫌なので、我慢しようっと。ふふふ、その代わり、良いこと思いついた」

大喜も黒瀬に慣れてきたのか、彼のいう『良いこと』が、決して言葉通りではないことを察していた。