その男、激震!(156)

「…順番が問題だ…」

桐生本宅へ戻る車の中。

「どこからだ? 直接本人? ――ない、ないない、ない」

ブツブツと大喜が独り言を呟いてる。

「オッサンに相談したいけど…待ってる間に時間が過ぎる…養育か…ヤクザの子だと虐められるのかな…友達できるかな…だったら、黒瀬さんとこで潤さんに…イヤイヤ、それはない…はあ、引き取ること前提で考えてるし、俺…俺も桐生っぽくなったってことか…」

先にこっそり鑑定した方がいいのか?
ううん、所長さんも言ってたけど、身に覚えがあるなら、男として自ら進んで受けるべきだ…仮にも桐生の組長だ。

「俺が仕切っていい問題じゃない…ここは、ヤッパ…」

帰路を急ぐ。
昨夜からの睡眠不足を解消し、スッキリしてから行動に移ろう。
佐々木のいない自宅に戻ると、大喜は二階の寝室に直行した。
勇一からの百万円を金庫にしまうと、部屋着に着替え、ベッドに鎮座する縫いぐるみシュウちゃんめがけてダイブした。

「シュウちゃん…しばらくオッサンの代わりな」

モコモコの身体を押し倒すと瞼を閉じだ。

 

 

『おはようじゃないよ、昼過ぎてるし』

大喜が起きたのは翌日の一時過ぎだった。
夕方から夕飯も食べずに寝てたので空腹で目が覚めた。
睡眠を取り過ぎた頭はスッキリどころかその逆で重くぼ~っとしていた。
熱めの風呂に浸かりながら、大喜は携帯で潤に連絡を入れた。ちなみに携帯は防水である。

「昨日はお邪魔しました」
『そうだね、ちょっと邪魔だった』
「――すみませんでした」
『冗談だって。それで何事? 佐々木さんのこと?』
「…ルーシー…です」
『ルーシー?』
「二人だけで話がしたいんです。どうしたらいいですか? できたら店じゃなくて…他の場所で…」
『…ううん、それは難しいね。俺たちの周辺に呼び出すのは得策じゃないと思うし…あ、社長!』
『逢い引きの相談?』

潤の携帯が黒瀬の手に渡っていた。

「もちろん、違います」
『知ってる』

なら訊かなきゃいいのに、と大喜は思ったがもちろん黒瀬に言わない。

『ルーシーに会いたいんだったら、女子会すれば? どこかのホテルでも居酒屋の個室でも女子会ならいいと思うけど。直接誘いに行って、連れ出しても問題ないし』
「…黒瀬さん、それ、俺に女装しろって言ってます?」
『ふふ、小猿の女装。ゴリラの女装よりは似合うんじゃない』
「…似合いません」
『じゃあね』
「え?」

大喜的には話の途中だった。
だが、潤に携帯が戻ることなく、黒瀬によって通話は遮断された。

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