「…若頭…俺、泣きそうです…」
「既に泣いてるぞ」
「初の海外がこれですか…」
「何事も経験だ」
「時枝さんやボンや潤さまやうちの組長が体験してきた数々の試練に比べれば、こんなもの屁みて~なものだ」
「…俺たち…屁ですか…」
「みて~だって言ったんだ。だがボンからしたら、屁そのものかもしれね~な~」
「…どうして、俺たち、こうなっちまったんでしょう。どこで選択を間違えたんでしょう…若頭…イヤです! 俺、人間です!」
「ヤクザが簡単に泣くな!」
佐々木、お前がそれを言うのか? と突っ込みを入れたくなる人間は大勢いるだろう。
恋愛物の映画を観ただけで泣ける男、それが佐々木だ。
顔に似合わずロマンチストで涙腺が弱い。
だが、今この場にいるのは既に泣いている木村と檻に入ったゴリラ二匹と虎一頭だった。
「…猛獣と船旅なんですよ…涙が勝手に零れるんですっ…あの虎、さっきから俺のこと見て涎垂らしてますっ」
時枝と会ったことは嬉しかった。
ルーシーには驚いたが、元気な姿の時枝と再会できたことは、木村に嬉しい出来事だった。
だが、その後は災難続きだ。
早朝、黒瀬が縄を解いてくれたときは、やっと帰れると喜んだ。
豪華な風呂も使わせてもらい、一気に天国だと佐々木と二人喜んだ。
だが、それも束の間だった。
「さっぱりしたところで、海の底かおつかいか、どっちがいいか選んで」
黒瀬に二択を迫られたとき、選ぶまでもないと佐々木と木村が飛びついたのは「おつかい」だった。
「何を買ってきましょう? 朝食用の食材ですか?」
佐々木が黒瀬に訊くと、黒瀬が珍しく冷気を帯びない笑顔で
「ゴリラにしては勘がいいね」
と佐々木を褒めた。
「紅茶を買ってきて欲しいんだ」
「紅茶だけでいいんですか? 他にも何かあったら買ってきますが」
木村が気を利かせて訊いた。
「紅茶だけでいいよ。今すぐ、ここで買ってきて。ここにしか置いてない茶葉だから」
三つ折りパンフを黒瀬が木村に渡した。
「・・・」
固まった木村の手から佐々木が貸せ、とパンフを奪い取る。
「……あの間違っているようです」
「間違い? 何を言ってるの、間違ってないよ」
「……ですが、香港となってます。本店か何かですか? 日本支店の住所が書かれていません」
「何を言ってるの? この店は一店舗だけだよ。世界に一つ。香港だけ」
「…間違いじゃないと。つまり、香港に行って紅茶を買ってこい、と」
「クロセの社長のつかいで来ました。と伝えるだけで通じるから。簡単なおつかい。もちろん、それぐらいできるよね?」
できないと言って下さい、と木村の目が佐々木に訴える。
「…えーっと、ですね…」
「できるよね?」
NOは許さないと言われているのと同じだ。
「…はい…今から発てば夜には戻って来れます」
佐々木の頭には飛行機での渡航しかなかった。
木村です。蚤です、屁です…酷い扱いです(・_・、)俺と若頭…この先どうなるんでしょう…あれ、このフレーズだと二人の関係がどうなるかって聞こえる…違いますよ、違います! 俺には妻子が~。本日もポチよろしく頼みますm(__)m 応援ありがとうございます
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