「ゴリラの許可も兄さんの許可も必要ないと思うけど? この私が提案していることなんだけど~」
黒瀬が笑みを浮かべ大喜を見た。分ってるよね、と語る黒瀬の笑顔に、大喜は従うしかないと悟った。
大喜が嫌がっても、佐々木も勇一も黒瀬には逆らえないのは分っている。
「ダイダイが二人の関係をややこしいものにしたんだろ? ここは内助の功で二人の関係を修復させてみろよ」
「――内助の功って、言われても…」
「仕事に打ち込める環境じゃないよ、今の二人は。イザっという時に、二人がギクシャクしていたら命に関わるかも知れないよ。そういう職業に組長さんも佐々木さんも身を置いてるっていうこと、ダイダイ本当に理解してる?」
ヤクザが職業と言えるのかどうかは別にして、潤の言うことは一理ある。
「…理解しているけどさ、でも…何も…朝から付き合わなくても…」
「じゃあ、夜付き合うの? 兄さんの最近絡み酒みたいだから、さぞ楽しいだろうね~」
三人が顔を合わせて食事をするってだけで気が重いのに、酔っ払った勇一の相手までしたくなかった。下手したら修復どころか関係悪化だ。
「――分ったよ。朝食をバカ組長と一緒に食えばいいんだろ。食うよ。食うだけだからな。――俺に二人をどうこう出来るとは思えない」
「ゴホン、無能な社員は必要ないですよね、社長」
潤が元上司の時枝ばりの秘書口調で、黒瀬に問いかけた。
「もちろん必要無い。潤のように優秀な社員しか、ね。食後のお茶も出ないようだし、ゴリラは戻ってくる気配ないし、そろそろお暇しようか?」
「はい、社長。行きましょう」
黒瀬と潤が、コントのように社長と秘書の会話を続けながら食卓を離れた。
「ちょっ、まだ話終わってないだろっ、食い逃げかよ!」
台所から出て行きかけた潤の足が止まり、潤とは思えない強い視線が大喜に向けられた。
「そこの一応内定者。別の会社を受け直しなさい。近々内定取り消しの通知が届くから」「じょ、冗談だろっ、…何言ってるんだよ、ちょっ、潤さんっ、黒瀬さんっ、二人とも、待ってくれよっ、」
玄関から出て行こうとする二人の肩を追い掛けて来た大喜が掴んだ。
「社長、ハエが」
潤が黒瀬の肩から大喜の手を払う。
それから自分の肩にあった大喜の手を抓る。
「ぃてぇッ」
「行きましょう、社長」
あくまでも大喜を無視するつもりらしい。
「やるってっ! 朝食も一緒に食べるし、俺が責任を持って二人の関係を修復する。元鞘っていうの? 任せろ! 時枝のオヤジの代わりに俺が二人を仲良くさせてみせるっ!」
「――ダイダイ」
潤が、可哀想な者を見るような目で大喜を見つめた。
「元鞘って…意味分っていってる? 仲良くさせる…って…プッ」
憐れみの目から、一変して噴き出した。
「ふふ、いいじゃない。これで朝から潤との時間を邪魔されなく済む。じゃあ、よろしく」
…俺、もしかして…嵌められた? と大喜が思った時には、二人の姿は大喜の視界から消えていた。